1/1
前へ
/1ページ
次へ
僕が小学2年生だったときの話です。 当時、僕は父さんと大きな池に釣りをしにきました。 日曜日だったと思います。 休日には、池の周りにズラーッと人が並ぶくらいの釣りスポットだったのですが、その日は誰もいませんでした。 あのときは、ラッキーと思っていました。 早速、糸に餌をつけ、釣りをし始めました。 5分くらいたったときでしょうか。 糸がスンッと池の底に向かって引っ張られ、僕は素早く引き上げます。 結構重たいなと、引き上げるのに苦戦しながら、池の中に目を凝らします。 こんな重さなのだから、きっと大物だと期待していました。 ゆっくりと引き上げると、僕の目に入ったのは、赤黒い塊でした。 まるで人の顔みたいでした。 真っ白い目のようなものが付いていて、長い髪の毛のようなものが生えていました。 魚ではなかったので僕は落ち込みます。 隣で僕の様子を見ていた父さんは、青白い顔をしてこう言いました。 「早く、早く戻しなさい」 父さんは妙に焦っていました。 声が震えていました。 僕は父さんの言われた通りに、その塊を戻しました。 結局その日は夕方まで釣りをしたのにも関わらず、何も釣れませんでした。 家までの帰り道。 僕はとぼとぼ歩きました。 僕は泣きそうになりながら父さんに聞きました。 「もう夕方になっちゃったね。父さん、今日の夜ご飯どうする?」 「コンビニ弁当…かな…」 僕はさらに落ち込みます。 この頃ずっとコンビニ弁当です。 コンビニ弁当は体に悪いと聞いたことがあります。 こんなときに母さんがいれば…と、毎回思います。 母さんは父さんと大ゲンカして、家を出て行ってしまいました。 去年の今頃ぐらいなのですが、一度も家に帰ってきていません。 母さんに会えない、母さんのご飯を食べれない、と思うと、すごく胸が痛みます。 沈黙が続きます。 僕は、何か話す話題がないかと思い、今日釣った塊について話すことにしました。 「父さん、今日釣れたあの変な塊、なんだと思う?」 父さんはそっぽを向きます。 また、沈黙が続きます。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加