巡るメッセージ、舞い降りる空。

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 樹里愛の母、卓史の元妻は美都(みと)という。4年前、樹里愛が中学1年生の時、パート先で知り合ったフリーターと「駆け落ち」(卓史談)し、突如蒸発して家庭を捨てた。  元々ピーキーな性格ではあったが、非道な消えっぷりに卓史は怒る以前に唖然とし、思春期突入の難しい時期に母に捨てられた樹里愛は、グレにグレた。  それでも結婚当初の美都は美しく、思いやりがある女性だった。娘が生まれるまでは。  樹里愛が4、5歳の頃から、美都は娘への態度が冷淡になっていく。小学校に上がるといわゆる毒親と化し、異様な過干渉と精神的ネグレクトを繰り返した。樹里愛は幼少期を母の気分次第で弄ばれて過ごし、結果、深い心の傷(トラウマ)を抱えるに至る。  今も樹里愛は、卓史がすぐに返事できない時などに不安げな表情をみせる。卓史もそれが辛く、無駄な不安を与えないよう互いに意識して大声で話すようになった。それが喧嘩に見える一因でもあるのだが。  母親に反感しか抱けなかった娘に、卓史は未だにどう接していいかわからない部分が多い。それでも元来呑気な彼は、少々荒ぶりながらも悪には染まらない娘を信頼し、深く愛していた。
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