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その夜。年末の大掃除を兼ねて美都の遺品を整理していると、簡素なアルバム…写真ファイル的なペラペラの冊子が入った袋が出てきた。一昔前、写真屋で現像すると付いてきたもの。古い富士フイルムのロゴ。
「ねーパパ、ネガってアプリのエフェクトじゃないの?」
「スマホしか知らん奴に説明してもな」
そういえば美都は写真好きだった。あくまで趣味の範囲で、現像も写真屋に出すレベルではあったが。
「このフィルム…APSだ。当時はコンデジが出始めで高くて、APSの方が次世代カメラで注目されたんだっけ。ま、秒で規格ごとマルっと消えたけどな。ん、消えた?持ち主そっくりってか、笑えねえよ!」
「哀愁のノリツッコミ…てかコンデ?エーピー…何?」
「APSはともかくデジカメも知らんのかJKは」
少しの覚悟をしてプリントを見る。卓史は、美都と撮った恥ずかしい写真ならどう誤魔化そうかと嫌な汗をかいていたが、空振り。雪景色で撮った家族写真が入っていた。
「阿寒湖だ」
「あーあたし覚えてる。雪で遊んだよね」
北海道の阿寒湖で行われる「阿寒湖氷上フェスティバル」の記念写真であった。厳冬期の凍りついた湖上で気温−20℃の世界を楽しむ趣旨で、巨大な氷上で吹きっさらしのため、体感温度は−30℃にも達する。
もはや「奇祭」の域だが、際立つ希少性とドM性ゆえ海外の観光客にも人気のイベントだ。
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