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ファイルの写真は、卓史も全部は見たことのないものであった。
「見て見て、あたしの足跡が点々と…」
「美都が、お前がとことこ雪を歩く様子が萌えるって、足跡を撮りまくったんだよ」
「変な人。あ、この写真面白い」
写真の幼い樹里愛は、雪上にクッキリ刻まれた一本の筋に沿って歩いていた。
「これ何の線?はっ!まさか氷の割れ目…あたしピーンチ!逃げてー」
「なわけないだろ。キツネの足跡だ」
「北海道のキツネは一本足なの?」
「あのな、それだとモノノケだ、モノノケサミットだ。生物0点だろお前。俺も美都に聞いたんだけど、キツネは左右の足を直線に揃えて踏み出すから、足跡が一本線になるんだってさ」
「へー、忍者みたい」
※キタキツネの足跡(北海道旭川市)
次は雪面だけが写った写真が出てきた。
「失敗?消せばいいのに」
「フィルムカメラはスマホみたいに簡単に消せないの。でもこれは…」
卓史は、見覚えのある写真をしげしげと眺める。
「お前がキツネの足跡を跨いだ時についた足跡が『小』の字に見えるって、『小っちゃい樹里愛の小の字、可愛い!』って、美都が撮ったんだ」
さすがの樹里愛も少し感慨深そうだ。
「ママってさ、やっぱ変わってたよね」
「そうだな。おまけに長い間、心の病で苦しんでな。お前への態度とも無関係じゃないと思う」
「あたしが理解してあげられなかったせいだ」
無理に自分の責任にして納得しようとする樹里愛。だがこの娘に負い目を感じさせるのは絶対にアウトだ。卓史は思わず語気を荒げる。
「違う!だから許せなんて言わないし、理解しなくていい。いい母親でなかったのは事実だし、小学生のお前が考えるべきことじゃなかったんだから」
「うん…って何これ?これはミスっしょ」
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