少年探偵団

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少年探偵団

「明日も元気に登校しましょう。皆さん、さようなら」 「さようなら!」 今日も1日何事も無く授業が終わり、元気良く挨拶をした後、皆は下校する。ただ、2年1組では、僕を含めた5人が残るんだ。 今日、毎週月曜日の放課後は『少年探偵団』の会議がある。創設者は小学2年生の僕、親盛冴人(おやもりさえと)。 ◆冴人は小さい頃から非常に頭が良かった。まあ、今も小さいのだが、既に面積の計算ぐらいなら出来る。面積と言っても三角形や四角形だけの話ではない。球の表面積まで求める事ができる。冴人は興味を持てば突き詰めるタイプで、しかも、習得までの時間が早い。刑事である父親の影響もあり、趣味はミステリー小説を読む事だ。スポーツ万能で冷静沈着。ただ、自分が正しいと思ったら、命知らずな行動を取ってしまう一面が玉に(きず)だ。 頭が良すぎると同級生と遊んでも面白くない、とはならず、友達を自分の楽しめる遊びに誘う事ができた。自分の楽しめる遊び……それがこの『少年探偵団』だ。偶々(たまたま)だが、集まったメンバーの頭も良かった。◆ 「それでは『少年探偵団』の会議を始めます。皆さんが集めた情報を発表してください」 教壇(きょうだん)に立ち、人見(ひとみ)が僕達に話した。議長は毎回、人見が担当するんだ。 人見信行(ひとみのぶゆき)は頭脳明晰(めいせき)でスポーツ万能。積極的で人気者。言葉遣いが丁寧なのに、意外と負けず嫌い。リーダーシップもとれるけど、僕がいるので『少年探偵団』では一歩引いて行動してるみたい。 「はい」 薬丸が手を挙げた。 薬丸一(やくまるはじめ)は正義感が強く、嘘をつくところなんて見た事が無い。親孝行で男気があり、自分の身を犠牲(ぎせい)にしてでも友達を助けようとする。 「薬丸さん、どうぞ」 「はい。山本さんから入手した情報なんですが、秘密の階段から猫の鳴き声が聞こえるとの事です」 秘密の階段とは、昼間でも木の陰で日光が届かない、学校の裏山にある気味の悪い階段で、地下に13段続いているんだけど、そこには別に何も無い。基本的には肝試しにしか使われず、誰も近寄らない。 猫の鳴き声が聞こえたから何なんだ、となりそうだけど、僕は少しだけ嬉しかった。何故なら、普段は誰かの消しゴムが無くなっただの、誰かがこけて怪我しただの、探偵を必要としないものが多かったからだ。僕は秘密の階段の調査と聞いて、冒険心がくすぐられた。 「分かりました。他に情報のある方は居ますか?」 「はい」 中川さんが手を挙げた。 中川華代(なかがわかよ)は『少年探偵団』の紅一点。才色兼備で人気者。怖がりの為、保身(ほしん)を考えて動いてしまうところがあるみたい。 「中川さん、どうぞ」 「はい。島田君からの調査依頼なんですが、最近、宮脇さんが一緒に下校してくれないので、浮気調査をして欲しいとの事です」 「浮気調査?!」 僕は驚いて聞き返した。 「はい。他に好きな男子が出来たのじゃないかという調査依頼です」 「尾行すれば解決しそうですね」 人見が悪びれずに言うと、小園が質問する。 「尾行って?」 小園空(こぞのそら)は、手先が器用で体が柔らかい。いつも笑顔だけど、頭は良く無く、早とちりなのに行動力があるので厄介な面がある。 「後ろからついて行く事です」 人見がサラッと説明した。小園が続けて話す。 「じゃあ僕、尾行するよ」 それを聞いた薬丸が小園へ注意するように言う。 「いやいや、尾行ってバレたらダメなんだぞ! そもそも、尾行する事自体良くないし」 僕は突っ込む所が多過ぎて、突っ込むタイミングを逃した。小学2年生が浮気調査の為に尾行……他のメンバーは何の疑問も持たず、淡々と話が進んでいく。最近の小学2年生は進んでるなと思った。恐るべしネット社会……。最近はYouTube等で、子供向けだというのに、浮気やら不倫やら嫁イビりやらを扱って興味を引こうとする動画が多数アップされている。そういう事情もあるのだろう。僕は自分も小学2年生というのを棚に上げて、小学2年生の恋愛事情を痛感した。と同時に、1つの仮説を思い付いたんだけど、ここでは言わずに進めた。 「はい」 僕は手を挙げた。 「親盛さん、どうぞ」 「はい。素人が尾行するとバレそうなんで、中川さんに宮脇さんと一緒に帰ってもらったらどうだろう」 「中川さん、どうですか?」 「はい。宮脇さんとは仲が良いので自然に帰れると思います」 「問題は宮脇さんに隠し事があった場合だね。中川さんに教えてくれるかどうか……」 僕が悩みながら発言すると、中川さんが話す。 「怪しまれても困るので、そこまで深くは聞かないですが、良いですか?」 「良いと思う。よし、じゃあ、中川さんを遠くから追いかける事にしよう」 僕が言うと、人見が質問する。 「どちらを先に実行しますか?」 「宮脇さんを優先しよう。秘密の階段は逃げないし、いつでも行ける」 「分かりました。他に情報は無いですか?」 人見は全員を見て、反応が無さそうなので話を続ける。 「無いようですね。親盛さん、まとめお願いします」 「はい。では明日から3日間、中川さんに宮脇さんと一緒に帰ってもらいましょう。特に変なところが無ければ、金曜日は秘密の階段の調査に移りましょう」 「はい」 全員が返事をした後、人見が締める。 「それでは、以上で会議を終わります。お疲れ様でした」 「お疲れ様でした」
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