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切り裂き魔
3月2日月曜日昼休み
2年1組の教室
「それでは『少年探偵団』の会議を始めます。今日は、昨日の制服切り裂き事件についての緊急会議です。皆さんの意見を教えてください」
昨日、隣町で女子中学生の制服のスカートをハサミのような、鋭利な刃物で切った事件がニュースになった。 被害者は1人で、いつ切り裂かれたかが分からないと証言している。不審者の目撃も無く、同級生のイタズラの可能性が高いと伝えられた。
手塚運送立て籠り事件が解決して、ホッとしたのも束の間の今回の事件。小学生にも関係するかも知れない。今回の会議は薬丸希望の特別召集だ。何故、放課後ではなく、昼休みに会議を行なっているのかと言うと、放課後は手塚兄がリベンジを申し込んできたからだ。昼休みの教室では、皆がいて会議をしにくいので、中庭のベンチで行なっている。
「はい」
僕が手を挙げた。
「親盛さん、どうぞ」
「はい。僕の意見を言わせてもらうと、皆を危険にさらすので、『少年探偵団』としてはノータッチでいきたい。正義感の強い薬丸の気持ちは分かるけど、危な過ぎるよ」
「そうね。私も怖いわ」
怖がりの中川さんは当然反対の姿勢をとる。
「そうですね。自分達の学校で起こった事件ならまだしも、隣町の中学ですから……」
「そうか……やっぱりそうだよな……。一先ず様子見だな。因みに親盛は犯人像をどう予想してるんだ?」
薬丸は僕に質問する。
「僕も報道と同じ予想だよ。同級生のイタズラかイジメだと考えてる。でも、情報が少ないしちょっと分からないかな」
「なるほど。分かった」
「はい」
小園が手を挙げた。
「小園さん、どうぞ」
「はい。手塚運送の犯人は関係無いですか?」
「手塚運送の真犯人は先週、逮捕されました。だから、無関係です」
「そうなの?」
◆小園はニュースを見ない。と言うより、小学2年生はニュースを見ない。両親とも難しい話はしていないようだ。普通の家庭は小2の子に時事ニュースを話さない。何度も言うが、他の4人が別格なのだ。◆
「だからもちろん、お母さんも無関係だよ。良かったな」
「そうなんだ。ちょっとだけ心配してた」
「他に情報のある人は居ませんか?」
人見は確認したが、誰も意見が無いようだ。
「では、少し早いですが……」
「はい」
中川さんが遅れて手を挙げた。
「中川さん、どうぞ」
「はい。話は変わっちゃいますが、今日の手塚さんとの勝負はどうしようと考えていますか?」
実は先日、手塚さんが再度、『少年探偵団』へクイズ対決を申し込んできていた。
「親盛さんはどうお考えですか?」
「そうだね、今回も前回と同じで、参加費は僕が全額負担するよ。ただ、今回は参加費がいくらか分からないから少し怖いんだけど、多分前回と同じか、もしかするとお金を賭けないかもって思ってる」
「何でそう思うんだ?」
薬丸が不思議そうに聞いた。
「そもそも、手塚さんは社長の息子でお金を欲していない。前回はチームワークを試す為にお金を賭けさせたけど、今回はチーム戦じゃ無いのかなって感じている」
「なるほど」
「でも、分からないから一応僕が全額負担するよ。それと、負け役が必要な時は、今回も薬丸と小園にお願いしていいかな?」
「了解」「了解です」
「他に情報のある人は居ませんか?」
人見は回りを見渡すが、意見のある人は居ないようだ。
「それでは、親盛さんまとめお願いします」
「最近、物騒な事件が続いているので、気をつけて帰りましょう。それと、放課後は絶対勝ちましょう。円陣組もうか」
『少年探偵団』は2度目の円陣を組んだ。
「絶対連勝だー!」
「おー!」
「それでは、今日の会議は以上です。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
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