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2年1組の教室
「では、回答を書いてください」
「無理だよ」
小園は泣きそうになりながら言った。
「小園頑張れー!」
「会話は禁止です」
小園は考える。
(どういう事だろう? 親盛君は僕が書けるみたいな自信のある顔だ。そもそも、僕には問題の意味すら分からないよ。えっと……イットリウムの何とかは? 漢字も読めないし……。あっ! 親盛君、綺麗に4枚の紙を並べている。ゼロ……ゼロしか読めない……。いや違う、あれってゼロじゃなくてエイゴ? だったかな? エイゴだったら僕には書けない……あっ! Y 字バランス! 書ける! と言うか Y しか書けない! でも、多分そういう事だ! 親盛君は賢いから全部分かってるんだ!)
兄秀は、冴人が諦めたので小園を選んだのだと思っていた。どうせお金も賭けていないし、分からないなら、その後、遺恨の残りにくい人物を選んだのだと思っていた。だが、この後、その考えが間違いだと気付かされる。◆
小園は意を決して鉛筆を持った。僕が覗き込むと、小園は紙の空白部分に大きく Y と書いた。手塚さんを見ると、衝撃の結末に信じられないという様子で、開いた口が塞がらないようだ。
「やった~! 小園ナイス! 手塚さん? 正解でしょ?」
「……正解です……。一体どんなトリックを使ったんだ? 全く分からなかった……。何か2人の中で暗号を決めていたのか?」
僕の歓喜の声を聞いて、隣の教室から皆が来た。薬丸は笑顔で小園に聞く。
「空! やったのか?」
「うん! 正解したみたい! 親盛君のお陰だよ!」
「いや、小園が僕の意思を理解してくれたから正解できたんだ!」
僕と薬丸と小園以外は何故、小園が正解を書けたのかも理解出来ていないだろう。薬丸は小園に言う。
「空! 皆に特技を見せてやってくれ」
「うん!」
小園は綺麗な Y 字バランスを皆に見せた。
「凄い! ……けど何?」
中川は驚きと困惑の表情をうかべる。手塚さんが質問する。
「Y字バランス……Y……だけど何か暗号が?」
「空って、アルファベットは Y しか知らないんですよ」
「そうなのか?!」
「だから、答えが Y だと気付いた親盛は Y しか書けない空を指名したって事なんです」
「そうか……参ったな。完敗だ……」
『少年探偵団』は6年生の手塚秀相手に2連勝を飾り、冴人を中心に意気揚々と下校した。
◆兄秀はショックを隠せない。自分史上最高の問題を解かれてしまったのだから……。
「兄ちゃん……」
「完敗だったな……」
「リベンジしようよ」
「そうだな。でも、俺はもう卒業だ。聡に託すよ。……そうだ! 聡も『少年探偵団』に入れてもらったらどうだ。切磋琢磨できて良いんじゃないか?」
「そうだね。ちょっと動いてみるよ」◆
「さすがは親盛さんですね。完全に諦めていました。私を指名されたらどうしようかと思いましたよ。まあ、あてずっぽうで Y を書くつもりでしたが……」
人見は笑いながら言った。中川さんが突っ込む。
「嘘ばっかり! 顔が真っ青だったわよ! それより、親盛君は Y だって分かったの?」
「うん。でも、僕もイットリウムが Y だとは知らなかったんだ」
「えっ?!」
「でも、手塚さんが何も考えずに、ただ、難しい問題を出すかな? って。だって、それなら僕達が納得しないでしょ?」
「イットリウムに納得できる回答方法があったのですか?」
人見が僕に質問する。
「うん。1問目から4問目までの答えって覚えてる?」
「ええっと……O、H、N、K でしたよね? 酸素、水素、窒素、カリウム……一応段々難しくなってるような気がしますが……」
「それって……えっ?! ……あっ! イットリウム……Y だ!」
中川さんが気付いたようだ。
「えっ?! 何か法則があるのですか? ……O、H、N、K……まさか、親盛、人見、あっ! そういう事なんですね」
「なるほど~。イットリウムのYは薬丸のYだったのか……」
◆小園は解説を聞いてもよく分かっていない。無理もない……普通の小学2年生にローマ字は分からない。他の4人が凄過ぎるのだ。◆
「でも今回、勝負には勝ったけど、問題を作る側と解く側では、作る側の方が難しいと思う。やっぱり手塚さんは凄いよ」
「そうですね。6年生でも手塚さんは別格だと思います」
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