桜の花が散る頃に

入団テスト

「それでは2回戦を始めます」
薬丸は机の上でトランプを交ぜる。そして、皆の前に1枚ずつトランプを配った。皆が手を伸ばすのを確認して、僕はジョーカーじゃないようにと軽く願いながらトランプをめくった。その瞬間、僕は、薬丸の奴やりやがったな、と思ったけど、特にリアクションをせずに皆の表情を窺(うかが)う。なんと3回連続のジョーカー。もちろん、偶然の可能性もあるけどさすがに薬丸が意図的に配ったんじゃないだろうか？
「それでは投票ステージを開始します」
僕は軽く周りを見ると、やっぱり皆は教室の隅へ移動しようとしていたので、1番に机へ向かう。着席して直ぐに『手塚』と記入しようとした時、ある事に気付いた。それは、僕以外の殆(ほとん)どが『親盛』と記入するんじゃないかという事だ。今までの2回とも僕への投票率が高い。投票ステージで排除されない為には、得票数が1位になりそうな人へ投票するのがベストだろう。そうなると『手塚』と記入するのは危険かも知れない。皆そこまで覚えて無いと思うけど、僕は2回とも手塚へ投票している。毎回、手塚が2票ってのも変な話だ。僕は少し考えた後『小園』と記入し、薬丸へ渡すと後ろの黒板の定位置へ戻った。順々に机へ向かう足音を聞いた後、薬丸が話す。
「それでは結果を発表します。親盛3票、空3票でした。それでは、排除者は無しで朝礼ステージへ進みます。1分程待ちますので、全員外を向いて、指名するかどうかを考えてください」

随分と票が固まったな。小園へ誰かが投票してくれたから助かった。もし、その誰かが小園以外の人へ投票していれば、僕がイジメっ子で確定だったんじゃないだろうか？ 例えば、小園へ投票したAさんが僕へ投票していればどうだ？ 一応、確定はしないか……。いや、この時、小園へ投票した人が僕以外に居たと仮定すると、この人は排除されなければならないから、僕がイジメっ子で確定だ。もし、Aさんが僕や小園以外に投票した場合はどうなるんだろう？ え～っと……。

「それでは、指名したいと言う人は挙手お願いします」

時間がきてしまった。とにかくギリギリの状況だったというのは間違い無い。この考えは、僕が普通の生徒になった場合に使えそうだな。でも、薬丸が意図的に僕をイジメっ子にしているなら無理だけど……。

◆冴人の考えの補足
投票結果が冴人4票小園2票だった場合、冴人が小園へ投票したのは全員に分かる。冴人がイジメっ子じゃないと仮定すると、小園へ投票した人物が他にも居る事になるが、この人物は自分に投票されず、最多得票者にも投票していないので、ルールにより排除される筈である。しかし、排除者は無しだったので、矛盾が生じ、冴人がイジメっ子だとバレるという訳だ。また、投票結果が冴人3票小園2票Bさん1票だった場合、Bさんに投票したAさんが排除されないという事は、Aさんは冴人か小園だと分かる。この時、Aさんを冴人だと仮定すると、小園へ2票入っているのに、その人物達が排除されていないという矛盾が生じ、Aさんは小園だと分かる。そして、冴人がイジメっ子じゃないと仮定すると、冴人以外の人物が小園へ投票しながら排除されていないという矛盾が生じ、冴人がイジメっ子と断定出来る。つまり、1人の人物に3票以上入ってしまうとイジメっ子が断定出来る可能性が出てくるのだ。但し、普通の小学生であれば、当然分かる筈は無い。◆

しばしの沈黙が流れた後、薬丸が話す。
「では、挙手された方はこちらを向いてください」
誰か手を挙げたんだろう。さすがに今回は負けたかな。
「それでは、イジメっ子だと思う人を指差してください」
沈黙が流れる……。その後、教室の中央で何かを書く音が聞こえる。
「それでは、皆さんこちらを向いてください。朝礼ステージでイジメっ子の確定に成功しましたので、イジメっ子の負けです」
「おお～！」
小園が声をあげた。
「誰が指名したの？」
中川さんが質問したので薬丸は答える。
「人見が親盛のイジメっ子指名に成功しました。今回のポイントは、親盛がマイナス1ポイントで人見がプラス2ポイント。残りの人達はプラス1ポイント。現在のところ、親盛3ポイント、人見と手塚2ポイント、その他の人は1ポイントです。それでは、最終の3回戦です。逆転を狙ってください」
「ちょっと良いかな？」
手塚が薬丸を制した。
「また作戦時間もらえるかな？」
「分かりました。では、5分間作戦タイムを設けます」