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「手塚君、怒っちゃったかな?」
小園が心配そうに聞いたので、中川さんが返す。
「でも、自分から試験してくれって言った結果だからね」
「まあ、今回は偶々不合格でしたけど、またチャレンジ出来ますから。再チャレンジして欲しいですけど……」
人見は残念そうに言った。手塚の再チャレンジはあるのだろうか? 僕は疑問点を薬丸へぶつける。
「因みに、今回の入団テストってイジメを無くす方法を問うゲームだったんだよね?」
「どういう意味?」
中川さんが聞き返すと薬丸が答える。
「そう、さすがは親盛。マジョリティーゲームはイジメ撲滅の方法を考えるゲームなんだ」
「どういう事ですか?」
人見が質問した。薬丸は続ける。
「合格条件の①は優勝。まあ、ごちゃごちゃ言っても優勝すればOKにした。②は子分に1度もならない。子分になっちゃったらイジメは無くならないから当然だよな。③は外れても良いから1度でもイジメっ子を指名する。俺の父さんはイジメ撲滅には、これが1番重要だと言っていた。イジメっ子を恐れず、全員で立ち向かう事。ゲームでも外せばマイナス1ポイントだし、実際でもリスクがある。でも、それが1番なんだと言っていた。イジメは他人事じゃなく、全員で立ち向かう問題なんだ」
◆実は、朝礼ステージで全員がイジメっ子を指名した場合、誰かがイジメっ子を指名出来る確率は100%なのだ。何故なら、指名する時、誰が指名するかが分かるので、指名しない人物がイジメっ子に決まっている。朝礼ステージで1人が排除されても同じ結果だ。
また、1人が指名せず、3人が指名した場合でも、
1-1/2×1/2×1/2=7/8
となり、87.5%の確率で普通の生徒側が勝てる。これが、このゲームの必勝法だ。薬丸の父親は、自分が作ったこのゲームを通して、イジメ撲滅の方法を息子に教えたのだ。◆
「だから、一応、親盛には全てイジメっ子になってもらうつもりだったんだ」
「やっぱり。僕も3回連続でジョーカーなんておかしいと思っていたんだよ。カードに仕掛けがあったんだね」
「そういう事。もし、親盛が必勝法に気付いて、毎回指名しだしたら気付かれちゃうかも知れないからね。ただ、最終問題も親盛がイジメっ子って空気になりそうだったから、最終問題だけ人見にジョーカーを配ったんだ」
手塚を不合格とした『少年探偵団』メンバーは全員で下校する。小園は今日も、病院へ寄って帰るようだ。小園と分かれた後、僕は話す。
「小園も偉いよな。毎日お見舞いに行って。大変だろうと思うけど、いつも笑顔だし」
「海ちゃん良くないみたいなんだよ」
薬丸が言うと中川さんが「腎臓?」と聞いた。
「腎臓もなんだけど、心臓の方がヤバイって……」
「心臓のドナーなんて、そんな簡単に見つからないですよね」
人見は残念そうに言った。僕は話す。
「まあ、そんな事言っても仕方ないよ。僕達に出来るのは、小園と楽しく過ごす事だと思う」
僕は皆と別れた後、自分が何不自由無く暮らせている事を幸せに思うと共に、海ちゃんの回復を願った。
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