夜を切る

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「かあさん!」  夜切は叫びながら勢い良く襖を開けた。  玄関で叫ぶだけでは足りなかったようだ。 「何です、騒々しい」  お加代は“かあさん”と言って懐く夜切が可愛くてならなかった。だが、甘やかす事はなかった。 「さっきの奴なんなんだ?!すごく失礼な奴だった」  夜切は眉根を顰めてむすっと口をへの字にした。 「ああ見えても憲兵さんですよ」 「冗談だろ?!」  二人とも随分な言い方である。 「冗談じゃありませんよ」  お加代は裁縫をしていた手を止めた。  お加代は着物等を縫って金銭を得ている。 「そこに座りなさい、夜切」 「はい」  針を針山に刺すと、お加代は夜切と正面あった。  背筋をピンと伸ばして正座する彼を見ると母親を思い出した。 (あの子も背筋を伸ばして座る子だった)  夜切はどんな時も姿勢の良い女だった。お加代は見ていて気持ち良いからと、そこもとても気に入っていた。
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