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僕を見てほしかった。
スマホやテレビよりも面白い話はできないけど、他愛のない話を目を見て聞いてほしかった。あの日、母の晩酌を邪魔して話しかけたのはそうしてほしかったからにほかなりません。二十歳の男がこんなことを願うのは気持ち悪いでしょう。男らしくないとか、僕だって思います。でも、いいじゃないですか。家族にくらい、そういうわがままを言っても。
だから、これは遺書ではありません。僕が取った方法は命がけですから、死ぬかもしれないし、死なないとしても重傷を負うでしょう。これが読まれている頃、僕は普通の状態ではないはずですから、置き手紙としてこれを残します。
痛いのは嫌だから、本当はこんな方法は取りたくなかった。けど、これしか思いつきませんでした。僕のことを見てくれるなら、痛い思いをすることくらいなんでもないなと、今では思います。
だから、というと卑怯かもしれませんが――父さん、母さん、姉さん。僕、聞いてほしい話がいっぱいあります。相談したいこともちょっとあります。もし目覚めたら、聞いてくれますか。息子の、弟の、わがままなお願いですが、聞いてほしいです。
敬具
中瀬ヒカル
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