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見るとミチルはちょいゲロを吐いていた。
「おい! お前ゲロ吐いてんじゃねえか! 大丈夫か?」
俺の驚きをよそに、ミチルはブルースリーのように親指で口元をピッと弾いた。
「これが俺の秘策だ」
ミチルが謎のドヤ顔をした。
量は少ないがまごうことなきゲロ。量は少ないが匂いは一人前。究極に不快な酸っぱい匂いが俺の鼻の奥に飛び込んできた。
「オエ、気持ち悪い」
俺は吐きそうになった。そうして体を前に倒した俺に、試合を中断したいレフリーのように、ミチルは膝を入れてきた。
「おい、吐くなよ。お前が吐いたら俺の計画丸つぶれだ」
ミチルは片膝を上げたままの状態でケンケンをし、俺に体当たりを繰り返した。俺は押されて薄気味悪い脇道の奥へと追いやられた。俺たちがミチルゲロからある程度遠ざかったのを見てミチルはケンケンを止めた。
「ミチルの計画ってなんだよ」
吐き気が収まった俺は、それでもムカムカする自分の胸をさすりながらミチルに尋ねた。
「心の眼って何だと思う?」
禅問答か。
「おそらく夜の山奥はもっと真っ暗だと思うんだ」
そう言ったミチルと共に俺はあたりを見廻した。当然街灯のない山の中。特に普通の人は歩かないような脇道にいる俺たちの周囲は、目をつぶっているのかというぐらい真っ暗だった。今持っている懐中電灯を消したらどうなるのか。想像しただけで俺は手に汗をいっぱいかいた。
「万一視覚が奪われたとなったら、頼りになるのは聴覚か……、」
「嗅覚か」
俺はミチルの言葉を奪った。このやり取りのカッコつけ感がこそばゆくて俺はまた吐きそうになった。
「オエ」
俺が吐く前にミチルが吐いていた。
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