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「お前、やり取りが恥ずカッコいいからって、なにも本当に吐かなくても」
「なに言ってんだ。これは秘策定期ゲロだよ」
ミチルはまた親指で口元をピッと弾いて、その酸い雫を拭った。
「キモ」
俺はこれ以上ミチルの秘策を見ていたくないと先頭切って脇道の奥へと歩き出した。
何かで踏みしめられて固まった土が細い道となって真っ暗な山中へと続いていた。導かれている。俺は人ならざるものが日常ならざるものをこの脇道の向こうで作っているかもしれないと恐怖を感じていた。
「オエ、オエ」
ミチルは相変わらず後方で秘策を繰り広げていた。その秘策の頻度も多くなり俺はいよいよクライマックスが来るのではないかと予感した。
するといきなり目の前が開けた。林の中に木や草が生えていない整備された原っぱが現れた。
「うわ、やべ」
俺は原っぱの入り口で立ち止まった。
「うわ、オエ」
ミチルは半ば癖になっているちょいゲロを、驚きと共に原っぱ入り口に吐き捨てた。
うっそうと茂る木々や草が綺麗に刈り取られていて、すっぽりと開けた空間が現れた。明らかに人の手が入った場所であった。なぜ、誰が、どうして、いろんな疑問が湧き出てくる不思議な空間。それが探さないと見つからない脇道の先にあった。その事実がこの場所を作った制作者の薄気味悪い意志を感じさせて骨の芯から震えがきた。
「何かある」
俺は原っぱの真ん中に立っている建造物に懐中電灯を向けた。
あばら家があった。よく田舎の田んぼの中にポツンと建ってある農具などを入れている物置っぽい建物がそこにあった。
「お菓子の家?」
俺は恐怖で魂と体の歯車が嚙み合わず、ボーっと立ち尽くした。ミチルはゆっくりとあばら家に近づき、その柱に手を当てた。
「ウエハースじゃねえ。木、みたいだ」
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