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ミチルは呆然といった感じで呟いた。俺は当たり前だろと思った。
懐中電灯の光をあばら家のあちこちに当ててみた。屋根はどう見てもトタン屋根。それも何かの樹脂のようなものでとても科学的な材質だ。柱は木材。壁もべニアの板で木材。
「ひょっとして、お菓子の家ではない?」
ミチルがあばら家を上から下まで見た後、俺に聞いてきた。
「どう見ても」
お菓子の家かと思ったら普通の物置だった。俺たちの冒険がこんな風に終わって、俺はホッとしていた。本当にお菓子の家があって、魔女が住んでいて、捕まって食べられそうになって、なんてスリルは俺の望むものではなかった。家を抜け出して、夜中に馬鹿馬鹿しい冒険をする。そこそこのスリルが欲しかっただけだったから。
しかし、ミチルはそうではないようだった。俺はもうある程度満足したので帰りたい素振りをミチルに見せたが、ミチルはもっと何かあるはずだと、あばら家の柱を揺すってみたり、壁を叩いてみたりと必死になってあばら家を探り始めた。
そうして、あばら家の裏手にまわったミチルが
「おい! これ!」
と、俺を呼んだ。
裏にまわると引き戸の扉があった。木でできた扉だ。ちょうど顔の位置にガラス板がはめ込まれてあった。
「中に入れるかな?」
「入ってどうする?」
「内装がお菓子で作られている」
「ないな。このあばら家の大きさじゃ、中に魔女がいても俺たちを茹でる大釜はなさそうだ」
俺の言葉にミチルはいよいよ諦めたようだ。ミチルは持っていた懐中電灯を扉のガラス板に向けて円を描くようにグルグル照らした。
「ワンチャン、これが飴でできていたら」
ミチルがそんな風に呑気に呟きながら懐中電灯の光を扉のガラスに向けていると、いきなりガラスの向こうに人影が浮かび上がった。
「うわ~~!」
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