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「こんな夜遅くに、こんな山奥まで来ちまって大丈夫かよ」
俺はミチルに尋ねた。怯えながら前を歩く俺、後ろをついて歩くミチル。
「大丈夫大丈夫。オエ。俺には秘策があるから。オエ」
時々カエルのように唸りながらミチルが答えた。
夜中にこっそり家を抜け出し、夜の登山へと繰り出した俺とミチルだった。真夜中に登山道から少し外れたところにお菓子の家が現れるという都市伝説を聞いたミチルが探しに行こうと俺を誘った。俺はお菓子の家という時点で「嘘じゃん」と思ったが、夜に家を抜け出して冒険というスタンドバイミースタイルに興味をそそられミチルの誘いに乗った。
特にしっかりとした計画もなく、少しのお菓子とジュースと懐中電灯だけを持って俺とミチルは山に入った。遭難の可能性も考えなくはなかったが、まあ山頂の標高が六百メートルという低い山だし、熱くも寒くもない五月だし、と完全に舐めていた。
最初は楽しいだけだった。ひと気がないのを良い事に大声で歌ったり、ターザンのように木からぶら下がるツタにつかまって遊んだりした。しかし、ある程度進むと二人とも喋らなくなっていた。徐々に密度を増す真っ暗闇が二人の心に恐怖心を植え付けた。このまま進んでもいいのだろうかと俺は怖くなった。ミチルは帰ろうと言わない。それならこちらから帰ろうと言いだすと怖気づいたのかと馬鹿にされてしまう。変な意地の張り合いで俺たちは気持ちと裏腹に、どんどん山奥へと進んでいくのであった。
そうして二人が無口になってしばらくして、ミチルが先ほどのように時々カエルのように唸るようになった。その頻度が増えていくにつれ、俺は心配になった。
「おい、ミチル、大丈夫か? 体調悪いのか?」
俺は異常に繰り返されるミチルの嗚咽に、たまらず声をかけた。
「いや、別に」
ミチルは平静に答えるのであった。
「そんなことより、ネットの噂だと、このあたりだ」
ミチルは登山道横の草むらをかき分け、隠された道を探した。大丈夫かよと思いながら俺もミチルを真似て草むらをかき分けた。すると道を譲るように不自然に木々がネジ曲がった場所を見つけた。
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