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1回の投稿が140文字という制限されたSNSアプリの中で、短編の恋愛小説を1〜2週間に一度のペースで掲載。
アカウント名は「s」の一文字。
自身の紹介文は、
「"何気ない"しか、勝たないです」の一言。
大学生同士の会話、バイト先のお客さんとの絡み、
色んな話があったけど、設定は全て"何気ない"。
でも何故だか、妙に胸にくるものがあった。
これが所謂、胸キュンと言うやつだと、なんとなく思った。
私みたいな枯れた生活まっしぐらの女でも、確かにした。
それが、爆発的な反応を寄せられていた。
いわゆる"バズる"と呼ばれる現象を、月に何度も。
「この人は絶対、化ける」
根拠は無く、だけど確信していた。
もう他の出版社から声がかかっているかも、という焦りの中で、自分の思いの丈を綴ったダイレクトメッセージは、恥ずかしいし気持ち悪いので、私は読み返せ無い。
何度目かのアタックの末、直接会ってお話ししましょうという段階までこぎつけて。
『…榛世 あすみさんですか?』
ドキドキと煩い心臓を深呼吸で落ち着かせて、カフェで待っている中、現れたのが今、目の前にいる彼女だ。
そこから、SNSに投稿していた小説に加筆をしてもらって正式にデジタルツールでの連載をして、想像以上にスピードのある反響から、書籍化にも繋がって。
正式なデビューからまだ、数年足らず。
今や、女性ファッション誌にコラムを寄稿したりラジオ出演まで果たす、"人気の若き恋愛小説家"の1人になった。
「s」は本名の「サチ」の頭文字だと聞いてから、私はずっと"サチ先生"と呼んできたので、書籍化する際にちゃんと決めたペンネーム、「橋羽未 サチ」になってからもその呼び名は、変わらない。
「堅苦しいのは嫌だからタメ口にして、先生ってつけるのもやめて」とずっとお願いされて、渋々前者だけ了承して、今に至る。
「仕事してる会話文に、
現実味が帯びないんだよねえ。
私は、"何気ないリアル"が売りなのに。」
「なるほど…」
そんな彼女に、新境地である"オフィスラブ"の話を書いてもらうのはどうか?と全体会議で打診されたのが数ヶ月前。
「ざっくりプロット起こしてみるかあ」と笑っていたサチ先生からの今朝のメールは、正直、編集者サイドとしては見逃せない。
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