▶︎(1通目)「"御曹司" 急募の件」

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1回の投稿が140文字という制限されたSNSアプリの中で、短編の恋愛小説を1〜2週間に一度のペースで掲載。 アカウント名は「s」の一文字。 自身の紹介文は、 「"何気ない"しか、勝たないです」の一言。 大学生同士の会話、バイト先のお客さんとの絡み、 色んな話があったけど、設定は全て"何気ない"。 でも何故だか、妙に胸にくるものがあった。 これが所謂、胸キュンと言うやつだと、なんとなく思った。 私みたいな枯れた生活まっしぐらの女でも、確かにした。 それが、爆発的な反応を寄せられていた。 いわゆる"バズる"と呼ばれる現象を、月に何度も。 「この人は絶対、化ける」 根拠は無く、だけど確信していた。 もう他の出版社から声がかかっているかも、という焦りの中で、自分の思いの丈を綴ったダイレクトメッセージは、恥ずかしいし気持ち悪いので、私は読み返せ無い。 何度目かのアタックの末、直接会ってお話ししましょうという段階までこぎつけて。 『…榛世 あすみさんですか?』 ドキドキと煩い心臓を深呼吸で落ち着かせて、カフェで待っている中、現れたのが今、目の前にいる彼女だ。 そこから、SNSに投稿していた小説に加筆をしてもらって正式にデジタルツールでの連載をして、想像以上にスピードのある反響から、書籍化にも繋がって。 正式なデビューからまだ、数年足らず。 今や、女性ファッション誌にコラムを寄稿したりラジオ出演まで果たす、"人気の若き恋愛小説家"の1人になった。 「s」は本名の「サチ」の頭文字だと聞いてから、私はずっと"サチ先生"と呼んできたので、書籍化する際にちゃんと決めたペンネーム、「橋羽未(はしばみ) サチ」になってからもその呼び名は、変わらない。 「堅苦しいのは嫌だからタメ口にして、先生ってつけるのもやめて」とずっとお願いされて、渋々前者だけ了承して、今に至る。 「仕事してる会話文に、 現実味が帯びないんだよねえ。 私は、"何気ないリアル"が売りなのに。」 「なるほど…」 そんな彼女に、新境地である"オフィスラブ"の話を書いてもらうのはどうか?と全体会議で打診されたのが数ヶ月前。 「ざっくりプロット起こしてみるかあ」と笑っていたサチ先生からの今朝のメールは、正直、編集者サイドとしては見逃せない。
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