▶︎(4通目)「嫉妬は急接近に必須な件」

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「…え、俺を置いて行きます?」 「だってこんなメモ貰って、そのままにしておけないでしょ。浜松先生のところ行ってくる。」 「俺、一人でここで仕事するんですか?」 「奈良君は何歳なの?出来るでしょ。」 メモを確認して、直ぐに浜松先生に連絡を入れた。 不安になってる時、1番の味方でいてあげたいと思うのは私のエゴなのかもしれないけれど、彼女がなんとか踏ん張ってる今を、もう見逃したくは無かった。 急いでデスクの上を片付けて、オフィスを出る支度をしているとゆるりと頬杖をついた奈良は、「この先輩仕事に対してまじで熱すぎ。」とまた怠そうな感想を溢す。 「榛世さん、目ぇ赤いですよ。」 「気のせいだよ。」 「俺、此処に知り合いも居ないんですけど。」 「新しい出会いの場にもなるのが、このオープンオフィスの良さだから。折角だから輪を広げたら?」 「じゃあ榛世さんは、あったんすか? 新しい出会い。」 「……奈良、此処誤字してるよ。」 「うわ、話逸らした。」 広げられた原稿に指差して伝えてから、全く納得できてなさそうな後輩を置いて歩きだす。    今日はこのまま、此処へは戻られない気がする。 土方さんに後輩が面倒をかけること含めて、お話をしてから出た方が良いかと、彼の居るデスクの方へ足を向けた。 ___それは同時に、 デザイン部の島も近いことを意味していて。 いつも通り優しい笑顔を浮かべる南雲さんと、今日挨拶を交わしたばかりの保城さんが談笑するシーンが、たった一瞬。 視界に入っただけなのに、直ぐに逸らした筈なのに、鮮明に脳裏に焼き付いた。 どうして。 その様子に胸をざわつかせる 資格も権利も、私には、何も無い。 土方さんはどうやら打ち合わせに入られているらしく、後で電話を入れようと決めてしまえば、出口へ向かう足の速度は増す。 「……っ、うわあ!!!」 「、ごめんなさい、!」 地面を見つめて雑な歩き方をしていたから、エレベーターホールに辿り着く直前の曲がり角で、丁度オフィスへ戻ろうとしていた古淵さんとぶつかりそうになる。 とても驚いた様子で、何なら大きく身体をびくつかせてその場で粋の良い魚のように飛び跳ねた彼の悲鳴が、廊下に響き渡ってしまった。 「び、びっくりした…!!榛世さん!」 「すいません…!急いでて。」 「榛世さん、出掛けられるんですか?」 「あ、はい。ちょっと打ち合わせが入って。」 「そうですか、頑張ってください! ……あれ、榛世さん、なんか、」 顔を自然と上げると、きょと、と目を丸くした古淵さんに視線は当然ぶつかる。 何かを悟られる前に、そしてグルグルと嫌な回転を繰り返す思考を振り切るために、「エレベーター来てるので乗っちゃいますね」と下手に笑う。 そのまま扉が閉まりかけた箱へ、自身の身体を滑り込ませた。
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