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“で、そのまま会いに行ったの?“
「はい。打ち合わせしてきました。」
“多分メモ見たら感極まって変な顔になる、までは奈良と予想してたけど、そのまま浜松先生のところに行くとは。恐れ入ったわ。“
「奏さん、奈良とタッグ組むのやめてもらえません?」
“後輩に好かれんのは良いことよ。“
「うまくまとめないでください。」
“…で?さっき送ってきた設定が、今後詰める予定のやつ?“
ケタケタと楽しそうな笑い声はそのままに、どうやら電話しながら、私が送ったメールも確認してくれているらしい。
「はい。私も1番良いなと思ったものです。
浜松先生も凄く前向きに、もう執筆進めようとしてくださってます。」
“夫婦の日常オムニバスねえ。訳アリ結婚の部分を段々紐解くのね。良いんじゃない?
展開がマンネリ化するリスクはあるから、毎回のエピソード選びは慎重にしないとね。
……まあ連載枠勝ち取ったらの話だけど。“
「勝ち取りますよ。」
うちのノベルアプリでは、連載形式で毎週掲載される作品は、部全体の企画会議を経て決定する。
勿論、作家さん達にとっても連載枠を勝ち取ることはとても大きなことで、それを大多数の人が第一目標に据える。
でもこの戦場に足を踏み入れることは、目に見える結果から、あっさりと途中で打ち切られるリスクも孕む。
「短編を一つ掲載する」ことよりも何倍も厳しい。
その厳しさを、浜松さんに正直に伝えた。
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『…実は先週、木原さんからも連絡をいただいたんです。』
『え?』
困ったように眉を下げた浜松先生から伝えられた事実を、私は勿論把握していなかった。
“浜松先生。思い切って、長編連載を目指されてみませんか。
うちの企画会議は、それまでの作歴を問いません。
チャンスは新人の方も、ベテランの方も、平等にあります。面白いものかどうか、それだけです。
ただ、作品を練る時もその後も、当然苦しいです。
今よりもっともっと苦しくなることを覚悟してください。
……榛世は「編集者として」以上に感情移入をする未熟さもあってご迷惑をおかけしますが。
浜松先生が「それでも苦しさを乗り越えたい」と言えばきっと、隣で必ず最後まで一緒に走る女だと思います。“
『そんな風に背中を押していただくというか、もはやお尻を引っ叩かれておいて、躊躇している場合じゃ無いなあと思いました。
あとやっぱり、ゴールがどうなるか分からないなら、私は今まで走ってくれてきた榛世さんが良い。』
微笑む浜松先生は、いつも苦楽を共にしているのであろう作業用チェアから立ち上がる。
そして「だから、これからも一緒に苦しんでください」と私に頭を下げた。
側から聞けばなんて物騒な言葉だろうと思う。
でも私にはとても重くて、同じくらいとても光栄で、簡単には受け止められない。
また視界が歪むのを隠すように浜松さんよりも低く、頭を下げた。
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うちの部長は、絶対にそういうことを私に直接言わない。
“榛世?“
「……奏さん。
私、また苦しむことになりそうです。」
“そう。まあ、作家との並走マラソンはあんたの得意分野じゃない?がんば。“
「軽いなあ。」
そのくせに、何も知らない、気づいてないフリをして、結局私の仕事の仕方を1番見通しているから敵わない。
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