▶︎(4通目)「嫉妬は急接近に必須な件」

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保城さんは、今の彼氏さんに日々通っていたコンビニで干物姿を目撃されてしまったらしい。ありのままが好きだと耐えず伝えてくる彼を信用出来ず、回り道も沢山したと話してくれた。 「0か100か、じゃ無くて良いと思います。 私は、この会社の方々のようにいつも真っ直ぐなんて出来ないので、今も誰にでも本性なんて見せられてません。 ずる賢く選んでる場合だってあります。 ……でもやっぱり。 大事な人達には、自分の全部を曝け出したいです。 じゃなきゃ、相手の全部なんて、きっと教えてもらえないですもんね。」 清々しく、自分の狡さまで認めながら伝えてくれる保城さんの笑顔はやはり眩しかった。 「話が脱線してしまいました。 …榛世さん、昨日何かトラブルがありましたか?」 「え?」 「外回りからオフィスに戻られた古淵さんが、とても慌てた様子で、話しかけてこられて。 "榛世さんの目が真っ赤だった"と。」 「…あ、」 昨日、浜松先生のところへ向かう時、エレベーターで古淵さんとすれ違ったことを思い出す。 先生の想いに触れて、奈良に揶揄われながら瞳を相当滲ませた後だったからだけど、あの一瞬で古淵さんに気付かれていたとは思わなかった。 「違うんです。驚かせてすみません。 仕事でちょっと感極まることがあって。」 「そうだったんですね。」 ほっと胸を撫で下ろした保城さんが、意を決したように私を見据えて、また口を開く。 「…でも私がもっと驚いたのは、その後です。」 「その後?」 「丁度一緒に古淵さんの話を聞いた南雲さんが、血相変えて飛び出していかれたので。」 「……え?」 「その様子だと、お会いになってないんですね。」 どうして。 私が彼を昨日見た時は、目の前の彼女と談笑している最中だった。 戸惑いの中で視線を落とすと、それに気づいた保城さんが「どうしても気になって。」と続ける。 「古淵さんからあの時の合コンの話を聞かれたということは、何か、他にもお聞きになっていますか?」 「……えっと。」 難攻不落だったと表現されていたことをどう伝えれば良いのか考えあぐねていると、沈黙はまた保城さんが破った。 「私と南雲さんは、偽ってた者同士です。」 「…え」 「南雲さんっていつも余裕たっぷりの方だと思ってました。少なくとも私がお会いした頃は、そう見えてました。でも昨日、その印象は変わってしまいましたね。」 ______ 『…枡川と今もよく飲みに行ってるんだって?』 『はい。2人でビールとハイボールひたすら飲んでます。』 『あれ。俺とご飯行った時は、なんかお洒落なサワーちょっとずつ飲む人だった筈なんだけど。』 『……その私は、本当の私では無いですね。 ごめんなさい。』 『でも、俺もそうだったからなあ。』 『え?』 『保城さんが何か抱えてるって気付いても、常に余裕で”何も気にしてない"みたいな姿勢で受け止めるのが正しいと思ってたから。』 『……今は、そうじゃないってことですね。』 『ここに取材に来てくれてる榛世さん、ずっと自分と戦ってる。 これ以上踏み込みすぎると嫌がられるかもって思う時もあるけど、俺はあの人に関することは、余裕が無い。 格好悪くても動きたいって思うし、大人ぶって待つのが全然出来なくて、困る。』 _______ 私は今、どんな顔をしてるのだろう。 言葉は勿論出てこなくて、保城さんの柔らかい笑顔をただ、見つめてしまった。
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