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「私も、打ち合わせに参加しても良いでしょうか。」
突然の確認に、南雲さんはじっと耳を傾けてくれてはいるけど、見開かれた瞳がその驚きを表す。
『あの、小林さん。私も出来る限りこのリニューアルの件、これからも関与させていただいても構いませんか?
ご縁があって〇〇さんの取材をしている私は、彼らがどんな仕事をされるのか、やっぱりちゃんと見たいです。』
奏さんには、直ぐにバトンを渡してしまう予定だと告げた筈なのに、小林さんにお願いしたことは、それとは正反対で、言葉の殆どが無意識に近かった。
だけど全て、本音だった。
「弊社の担当には、既に許可を取ってます。
……昨日お誘いいただいた件も、まだ有効ですか。」
「え?」
「センスも無いし、私では何も役に立たないかもしれないですが、家具のカタログ、一緒に見てみても、良いですか?」
声が、震える。
今、私はすごく怖いのだと、何処か自分の様子を客観的に悟りながらも、脈拍は大きく乱れていた。
私は色んなものを大切にするのが下手だから、きっとまた誰かを傷つける。
だから、他を全て捨て置いて、仕事第一に生きる自分を選んだ。
『会えないと寂しいって思って、会えたら嬉しいって思うのは、何より証拠じゃないですか。』
『一生懸命走る人にとって、休憩所の水って凄く大事でしょう。
それを榛世さんに渡せるポジションなんか、役得過ぎますね。』
『すいません、回りくどく言うのやめます。俺が、榛世さんと話したいだけです。』
でも、真っ直ぐ降り注ぐ言葉を避ける度に、心が悲鳴を上げていた。
保城さんが、言ってくれたように。
望んでいない自分をこの人の前で、放り出してしまっても良いだろうか。
「南雲さん、ごめんなさい。
私はいつも南雲さんの言葉に逃げ腰で、失礼な態度ばかり取ってしまいました。」
「……俺が好き勝手に言ってただけだよ。」
「こっちが謝るべきですね」と困ったように笑って、私の懺悔を無いものにしようとするこの人の優しさが心に深く浸透して、傷口をそっとなぞっていくようだった。
「…私は、仕事しか大事に出来ないと前にお伝えしました。南雲さんは、それで良いって、言ってくださいました。」
「……はい。」
『俺は勝手に、榛世さんを大事にします。』
何言ってるのって突っぱねながら、だけど結局は甘えていた気がする。
___勝手に大事にしてもらうなんて、私は何様なの。
「本当は、そんなの嫌です。
うまく大事に出来ないとか逃げたりしないで、
南雲さんを大事にできる自分に、なりたいです…っ」
「、」
両手を未だに掴まれていて、ぽたぽたと自分の目から絶えず溢れるものを拭う術が無い。
私、この人の前でみっともない自分しか見せてないかもしれない。
子供みたいに泣く自分があまりに恥ずかしくて、でも止まりそうに無いからと、せめて顔を背けようとしたのに。
頬が柔らかく何かに包まれたと感じた時には、彼の両手に顔を固定されていた。
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