▶︎(4通目)「嫉妬は急接近に必須な件」

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私だけを閉じ込めてくるみたいな近い距離の垂れた瞳が、柔らかく細まるその一部始終に動悸がより一層激しくなった。 「な、南雲さん?」 「榛世さんは、案外泣き虫ですね。」 「……あまり言われたこと無いです。不覚です。」 感動の方で涙を滲ませて奏さん達に揶揄われることはあっても、こんな風に人前でぼろぼろに泣くことはあまり無いと思う。 ただ一心に目の前の彼を見つめるしか出来ないこの環境に、ちょっと気まずくなって瞬きを増やしたら、瞳に溜まった水分がまた溢れてしまう。 頬に手を添えながら、器用に指先で目尻を拭われることにもまた、懲りずに心拍数が上がった。 「…榛世さん。」 「はい。」 「榛世さんが、仕事以外に目を向けるのをいつも怖がってるのは分かってます。何かあったんだろうなって、それも分かってる。」 「……はい、」 「でもそこから勇気出して、"俺のことも大事にしたい"って言ってくれた。それだけで、すげー嬉しい。」 ちょっと口調を崩した彼は、その言葉の通り眩しくはにかむ。その笑顔を見たら私は反対に、また涙が増えた。 「……南雲さんは、変わってます。 そもそも、こんな偏った考え方の奴は面倒だって普通はなります。」 「そっか。榛世さんは面倒なのか。」 「面倒ですよ。」 『お前は今、"何処"に居んの。』 過去の出来事で、今も未だうまく動けない。 胸にどうしても痛みが走ってしまう。 そういう自分をずっと抱えている。 「でも、"普通"は別に要らない。 俺は、その過去を経験してる今の榛世さんが良い。」 重苦しく言われるわけじゃない。 かといって、凄く軽くも無い。 至極当然のように、だけど躊躇うことなく選び取ってくるこの人と、私、ちゃんと向き合ってみたい。 「そろそろ会議終わりますね。」 「そうですね。」 どのくらいこうして話していたのか分からないけど、誰も見ていないと言え、今の私と彼は、オフィスに似つかわしい態勢とは言えない。 「っ、!」 それを自覚して身動きを取ろうとしたのに、何故だか両頬に添えられた手に力がこもった。 「……南雲さん?」 予想していなかった力の働き方にびっくりしたのも束の間で、より一層見つめ合う距離が近くなる。 「………」 「あ、の、」 流石に、近くないだろうか。 鼻先が触れてしまうみたいな距離に、呼吸が詰まる。 「とりあえず、榛世さんの後輩君より近づいておこうと思って。」 「え?」 「奈良君だっけ。 彼、榛世さんのこと好きですよね。」 「…奈良ですか?」 脳内で、ニヤニヤと笑う怠そうな後輩を思い出す。 「いや…? あの男はいつも私の反応を愉しんでるというか。」 「成る程。榛世さんはこの分野、ダメそう。」 「だ、ダメそう…?」 なんとも失礼な評価を受けて若干のショックを抱えていると、困ったように眉尻を下げる南雲さんが漸く拘束を解いた。
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