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頬に集まっていた熱はそんな直ぐ消えたりしない。
自分の手の甲を当てながら気休めに冷やそうとしていると、未だに彼は至近距離のまま、こちらを見つめている。
あの後輩にこんなに近づかれたこと、当たり前に無いのだけれど。
というか、例えば私に対してそんな勘違いされてると知ったら、奈良が「え、なんで俺が榛世さんを?怖。」と真顔で伝えてくるのが簡単に目に浮かぶ。
そんな風に思考を旅させる間も、じりじりと距離を攻められている感覚に不自然に一歩、後退りしてしまう。
「……な、なんですか。」
「いや。ちょっとは俺のこと意識してくれてるのかなあと思って。そんな素振り見るの初めてなので。」
私の様子に破顔する南雲さんに理由を尋ねると、あまりにどストレートな感想を受けて後悔が襲う。
こんなの、熱が下がる筈がない。
でもさっき本音を漏らしたせいなのか、するすると言葉が流れていく。
「……ちょっとじゃ、ないと思います。」
「え?」
「…昨日、合コンの話を聞いたり、保城さんと南雲さんが話されてるの見て、その後、うまく振る舞えなくなるくらいには、…、」
どう考えても貴方を意識してしまっていますと、最後まで言い切れない情けない私を、燃えるような恥ずかしさが襲う。
でも俯こうとするより先に、また透き通る眼差しをぶつけられてしまった。
険しい表情の私を見て、南雲さんは可笑しそうに息を溢しながら目尻の皺を増やす。
「俺と一緒ですね。」
「?」
「昨日オープンオフィスで奈良君と仕事してるの、めちゃくちゃハラハラしてた。」
「…な、南雲さんが、ハラハラ…?」
「え。疑われてる。」
「そんな素振り、全然無かったです。」
『…そうですね。是非また、感想教えてください。』
それこそ奈良が此処に押しかけてきた時も、和やかな笑顔を置いて立ち去ってしまったのに。
「流石にずっと自分の気持ち押し付け過ぎたかなって反省して、自重しようとしてたから。
でもやっぱり結局、気になってた。」
「…そう、なんですか。」
「そうなんです。」
私の言葉をちょっと戯けたように繰り返す彼に、またきゅ、と胸が締め付けられる音を聞いた。
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