夜が明けたら、君に

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「朝までお疲れ様です」  くたびれたスーツ姿の俺を一人だけ乗せたタクシー運転手の言葉。 「そちらこそ、朝まで大変ですね」 「いやいや、乗っていただけるのはほんと嬉しいですよ」  ふだんは淀んで詰まっている幹線道路を、軽快に流れていくタクシー。  窓の外の真っ暗な闇が、遠くの方から少しずつ明るさを取り戻していく。  嫌なことやどうでもいいことは全部置き去って、好きなことや大切なものとだけ過ごしていきたい。  窓に反射して映る自分の顔に、目を細めて笑う彼女の顔が重なる。  夢じゃないよな。  彼女が傍にいてくれる日がくるなんて。    ようやく俺の薄暗い人生にも光が差し込みはじめたか。  ぼんやり思っていたとき、運転手がつぶやいた。 「あれ、やばいなあ」
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