File2

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  俺の顔を見て気が緩んだのだろう。チカの家の玄関先で会った瞬間、チカは顔を覆って泣き始めた。  そうしていると、もともと背の低いチカが、いっそう小さく頼りなげに見える。  抱きしめて慰めてやりたい、そういう衝動と俺は戦っていた。チカはナツのものだ、俺にはそんなことは許されていない、そう思ったのだ。  俺はチカの頭に手をのせた。髪を撫でたのではない、ただ、手をのせただけだ。それでも、チカの身体が一瞬硬直するのがわかった。 「大丈夫だ。きっとなんとかなる。俺がどうにかする」  チカは顔をあげた。  涙でぐちゃぐちゃになった顔に、奇妙な泣き笑いのような表情が浮かんだ。  チカの手が、すがりつくように俺のシャツの袖をつかんだ。 「やめよう。もういいよ。アキまでいなくなったら、私……」 「大丈夫だ。俺はいなくならない。最後までそばにいる」  俺は根拠のない「大丈夫」を繰り返した。  何の誠実さもない。  俺は、捜索をやめるつもりなどなかったからだ。 「信じるよ、アキがそう言うなら……私ね、ずっと思ってたの。ねえ、聞いて、アキ……」  そのときチカが何を言おうとしたか、わからない。  ちょうどタイミングを見計らったかのように、『承認する』と『あとで承認する』が、二人、それぞれの視界に浮かび上がったからだ。  気の抜けた笑いが起こった。 「もう! 何なの、これ」  自然と話題が変わった。チカがそのとき何を言おうとしたかは、謎として残った。      
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