File3

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 廃屋に入る。玄関が破壊されていて、床面に下への出入口がつくられていた。厚いステンレス鋼板の扉だ。指紋認証ユニットと小さな液晶モニターとキーボードが床に直置きされていて、何本ものケーブルが床をのたうっている。シンさんがキーボードから何か入力し、指紋認証装置に指を押し当てると、重い音がして扉のロックがはずれた。  床下には細い階段が掘られていた。人一人が通るのがやっとの幅で、高さもない。足元はコンクリート。壁と天井は鉛の板が張られている。 「狭いからな。頭気をつけろ」  とシンさん。  ナツの友達だと認識されたら態度は柔らかくなったが、相変わらずバールは握ったままだ。入浴などしていないのだろう。後ろを歩いていると、口の中にえぐい味が広がるような、強烈な体臭がした。  地下二階ほどの深さまで行くと、壁と扉があった。またキーボードと指紋認証。開けると、そこが生活空間であるらしかった。  小型発電機の作動音とガソリンの臭い。そこから太いケーブルが伸びて、変圧器とか分電の機械とかが、古いpCや照明器具や空調設備にケーブルで接続されている。  壁の一方には非常時用の保存食の缶と、水のペットボトルの入った段ボールが積み上げられ、もう一方の片隅には空き缶と空のペットボトルが散乱している。  寝具が乱れたままのベッドがあり、机と椅子があり、その傍らには無数のノートが乱雑に積み上げられていた。壁も床も天井も、隙間なく鉛の板が張られていた。  ナツの記憶に寄れば、四畳半より少し広い部屋。しかし今見る印象はもっと狭い。匂いも乱雑さも、ナツが見た時とはくらべものにならない。 「まずは、q-phoneを預からせてもらう。ユキのだけじゃない。おまえのもだ」  俺のq-phoneはアルミシートでくるまれ、銅板と鉛の板が張られた冷蔵庫のようなものの中に放り込まれた。 「で、これをいいんだな。そのために来たんだろう」   シンさん——俺にとっては得体のしれないひげ面の男は、ユキのq-phoneをつかんでそう言った。  もう一方の手には、まだバールを握っていた。  
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