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チカから送られたpinでは、共有領域に保存された情報しか見ることができない。q-phoneは装着された手首の静脈パターンで本人を識別しており、自動保存されるすべての記憶にアクセスするためには本来それが必要になる。ユキが消えたときの状況を知るためには、シンさんのような人に割ってもらうしかない。
「少し時間はかかるが、割るのは難しくない。ただな、見ても無駄になるかもしれないぞ」
おそらくユキは死んでいる。シンさんはそう言いたいのだろう。
「いなくなった子供はユキだけではないんです。何かが起きてる。ネットワークの管理者はそれを隠そうとしてる。それを暴いて欲しいんです。そうでなければ、ナツも浮かばれません」
「ナツも、というのはどういう意味だ?」
「ナツとも連絡がとれません。不都合な事実を知って消されたのかもしれない」
シンさんはそこではじめてバールを置いた。深いため息をついた。空調機の下に行き、しなび煙草を取り出し、火をつけて吸った。
「そういうことなら、別に割る必要はない。俺はNQCのエンジニアだった。q-phoneの開発にも加わっている。不都合な事実なら、だいたい知っている」
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