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「でもな、秘密は何もないんだぜ」
電子レンジのようなものにユキのq-phoneを入れ、振り返ってシンさんは言う。
「誰もがアクセスできる場所にそれは示されている。陰謀でもなんでもない。q-phoneのユーザーは全員それを知っているはずなんだ」
俺はしばらく考え、やがて答えを見つけた。
「ユーザー規約?」
「そうだ。俺が説明するまでもない。あれを読め。ぜんぶ書いてある。あれを承認するということは、その人の責任において、q-phoneが引き起こす事態を受け容れるということなんだ」
「子供がいなくなるって書いてあるっていうんですか。それはいくらなんでも……そもそも、法律的にどうなんですか?」
「もちろん合法だ。特別法が国会を通過してる。それも調べればわかるところに書いてある」
「聞いたことないですよ」
「報道しない自由というやつだな。報道しないことは違法じゃない」
「いや、ずるいですよそれは」
「まあ、君やナツは未成年だから権利に制限がつくが、選択の自由も、選択の機会も、すべて与えられているんだ。確かに悪いやつや狡いやつはいる。でも、それにもかかわらず、権利と責任はすべての一般市民のものなんだ」
シンさんは煙草を灰皿に置き、ノートの山の中からファイルを見つけ出し、そこから数枚のプリントアウトを抜き出した。
「ユーザー規約のひとつだ。書いてあるが、プリントアウトすることは規約違反だ。だから持ち帰らずにここで読め。
シンさんはまた煙草をとり、煙を深く吸う。
渡された紙に目を走らせるが、表現が独特で何も頭に入ってこない。
「俺、頭悪いんで、わかんないですよこんなの」
「そう言って逃げるのもいいさ。でもな、『承認する』を一度でも押したことのあるやつは皆、消えた子供について責任がある」
痛いところを突かれた。何も言い返せなかった。でもその一方で、子供を煙のように消してしまうシステムなどというものに、どうしても現実感が持てない自分もいた。
「それがわからなければドラゴンに聞け」
「え」
「今、新港に来てるんだろ。すべてはドラゴンが知っている」
シンさんは静かにそう言った。
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