File3

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 そのとき、ユキのq-phoneが入れられた装置からブザー音が鳴った。  シンさんはキーボードから何か打ち込み、モニターを確認し、装置の扉を開けた。  見た目は何も変わらないq-phoneが出てくる。  シンさんは平たいリング状のそれをつかみ、 「元の姿にもどす。一瞬だ、見逃すな」  そう言った。  そして針のようなものを持ち出し、リングの内側の一点を狙い、突き刺した。  静電気がはじけるようなバチッという音とともに、q-phoneは平たい楕円形の鏡になった。  本当に一瞬の変化だった。  シンさんは厚さ二ミリほどのいびつな楕円形のそれを、かざして見せた。手首を返す。その背面は光沢のない夜のような黒。 「鱗さ、ドラゴンの」 「……え?」 「すべての機能は、この状態ですでに備わっている。NQCの工場でしているのは、それを工業製品に見えるように整形することだけだ」  俺は思考が追いつかない。目の前で起きたことの意味が、わからない。 「縁を掴んで、イメージしろ。この状態では個人認証は必要ない。そのままで、全人類の集合記憶にアクセスできる」  鱗を渡された。何も考えられないまま受け取った。  なんだって? この人は何を言ってるんだ? 「言語化すると明確になる。ユキが消える直前の視覚象が見たい。そう言ってみろ」  俺は言われた通りにした。鏡が、何かを映し出した。  光るノイズのようなものが視野いっぱいに揺れている。  湯気と、飛び散る水滴。ユキはシャワーを浴びているのだ。  広くもない、つるりとしたクリーム色の壁のユニットバス。  ユキの腕が、幼い肢体が、ときどき視界に入る。  何も起こってはいない。ユキはただシャワーを浴びているだけだ。  が、突然、視界が揺れる。  ユキが振り返ったのだとわかる。視野に飛び込んできたのは、等身大よりも大きい楕円形の鏡。縁を金色に光らせながら、空中に浮かんでいる。驚きを浮かべるユキ自身の顔が映る。  鏡像のユキが鏡の中から手を伸ばして、ユキの腕をつかむ。視界が激しく揺れる。ユキは抗っている。しかし、鏡面が近づいてきて、恐怖にゆがんだユキの顔がが大写しになって、そして、すべてが真っ暗になった。    
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