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聴覚記憶ファイル 発信者:ナツ
アキ、おまえには、ずっと言わなきゃならないことがあった。
俺とチカとが付き合おうと思うと言い出した時、お前は何も言わずに認めてくれたよな。
あのとき、チカが寂しそうな顔したの、気づいていたか。
おまえはときどき本当に鈍感なのか、知っているのに気づかないふりをしているのか、わからなくなることがある。
俺とチカとが、どうして話すようになったか、おまえ知ってるか。
最初はチカからの恋愛相談だった。
「ずっと友達のように過ごしてきた人がいて、でも最近、その人のことが好きなんだと気づいてしまった。だけど、きっとその人は、私のことを幼馴染としか見ていない。どうすれば振り向かせられるだろう」ってな。
だから、いつか俺、おまえに聞いたよな、チカのこと、どう思ってるんだって。
おまえは「幼馴染だ、大事だけれど、それだけだ」そう言ったよな。そして俺に聞いただろ「チカのことが好きか?」って。
俺は答えられなかった。お前も、その話を続けようとしなかった。
そのとき俺は、腹をくくったんだ。
正直、チカの友達のような顔をして、自分の気持ちを隠し続けるのは、もうしんどくなっていたんだ。
だから、そのままぜんぶ話した。「もうつらいんだ。俺を見てくれ」ってな。
チカはそれで泣いてしまってな、俺はすぐに後悔したよ。
結局チカは、俺を受け容れてくれた。どういう気持ちだったのかわからない。でも、やっぱり見えてしまうんだ。
俺と二人きりのチカと、おまえがいるときのチカは、ぜんぜん違うってな。
俺とチカは一緒に出かけたりするようになったけれど、カタチだけだ。チカは、なんにもさせちゃくれなかったよ。
だから、チカは今もきれいなままだ。
それはちゃんと、知っておいてほしい。
ユーザー規約、読んでみたんだ。
おまえも読んでおけ。大変なことが書いてある。NQCや政府の偉いやつらは、ドラゴンとひどい取引をしたんだ。
「十七歳以下の子供は、男女を問わず、無作為に対象に選定される」
選定っていうのはな、ドラゴンが来た世界、鏡の裏側の世界に連れていかれるってことなんだ。
おとぎ話みたいだよな。とても信じられないよな。
でも本当なんだ。少なくとも、子供が突然いなくなってもかまわないから、q-phoneの力が欲しい、そういう取引をした奴らがいたのは、きっと本当なんだ。
それでな、もし俺が近いうちにいなくなったら、無作為っていうのは本当じゃない。
NQCは、都合の悪いやつ、黙らせたい奴を、対象に選ぶことができる。そういうことだと思う。
このファイルを開いたとき、もし俺がまだお前たちのそばにいたら、バカなやつだと笑ってくれればいい。
でももし、そうじゃなかったら、二人とも急いでこの件から手をひけ。
まあとにかく、チカの話を聞いてやってくれ。チカを受け容れてやってくれ。
俺はこういう性格だから、お前にはずいぶん迷惑をかけた。迷惑のかけついでに、遺言だと思って、きいてくれ。
チカのことを頼む。
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