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File4
俺はシンさんのアジトを飛び出し、自転車で走り出した。アスファルトの亀裂や隆起になんどもタイヤをとられ転んだが、俺はそれどころではなかった。
チカの無事を確認しなければならない。
俺の頭を占めていたのはそれだけだった。
札幌近郊の無人地帯から、圏内に戻るまでの時間は、永遠に続くのではないかと思うほど長く感じられた。
だが、q-phoneのノーティスが視界によみがえる。
数が多い。
大半はどうでもいい広告宣伝だ。繰り返しあがってくるそれらを視界から追い出しながら、俺はチカにコールを送る。
接続されない。嫌な予感で背筋が冷たくなる。チカはまともに学校に通っているから、今は授業中だ。時刻を確認して自分に言い聞かせる。
大型トラックがクラクションを浴びせながら通り過ぎていく。
俺は慌てて路肩に自転車を寄せる。
知らぬ間に市街地まで帰ってきていた。もう自転車を漕ぎ続ける必要はない。
俺は自転車を歩道に上げて停車、ぜえぜえと息をつく。熱い汗と冷たい汗が同時に身体を濡らす。
「返事をしろ、チカ!」
声に出して叫ぶ。
たまりにたまったノーティスが次から次へと視界に上がってきて止まらない。注視と瞬きの操作でどんどんさばいていく。
>承認してください:承認する:あとで承認する
条件反射だった。
視界の真ん中に現れた承認ボタンを、俺は押してしまった。
「アキ、大丈夫?」
「チカ!」
安心のあまり、膝から崩れ落ちそうになる。
だが、そのときだった。
経験したことのないノイズが、全知覚を走り抜けた。
ゴシック体の文字列と、無感情な合成音声が俺に告げる。
>接続が切れました。再度コールしてください。
>ご指定のq-phoneは正しく装着されていません。
>ご指定のユーザーの位置情報が取得できません。
何を試しても、何度確かめても同じだった。
どこかで、雷鳴が響いた。
大粒の雨が、音をたてて降り始めた。
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