ドラゴンの日

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 おそらく自衛隊はその時の映像を持っているのだろうが、それは公開されたこともリークされたこともない。  その夜ニュースで流れたのは結果だけだ。人工衛星のカメラが撮影したという、面積千四百キロ平方の、暮れゆく空を映す平面。そしてその上空を飛行する、常識では説明しがたい何か。  それはスズでメッキされたような輝く鱗に覆われた、翼長十七メートルあまりの飛行物体。爬虫類めいた頭部と長い首を持ち、四肢があり、トカゲのような尻尾があり、羽ばたきと滑空を交互に繰り返しながら、巨大な鏡面の上空を円を描くように飛行していた。  そして直上からの衛星画像から判断するなら、空に浮かぶ鏡の中から、もう一つの飛行物体が出現した。  同じ大きさ、同じ形態、しかし、その表面は全く光沢のない、夜そのもののような黒。    映像は、そこまでしか公開されていない。  数少ない目撃者の証言によれば、二頭のは争い、黒いドラゴンが勝った。水銀のドラゴンは鏡の中に飛び込むようにして姿を消し、以来、黒いドラゴンだけが鏡のこちら側に残っている。  北海道の行政機能は千歳市に移され、札幌周辺に住んでいた人々はさらなる災害を恐れて各地に移住していった。  当時札幌に隣接する町に住んでいた俺やチカも、日本界に面する道央の町、石狩町に移住することになった。  チカはあの日父親を失っていて、俺はチカを支える必要を感じていた。  二年後、ナツがチカの前に現れるまでは。                
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