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NQC、日本量子通信の前身は、私設の科学研究機関だった。札幌の鏡面化のさいに観測された素粒子に興味を持った彼らは石狩町の北方に研究所を建て、その翌年にはq-phone第一工場の建設を始めた。
q-phoneは商品化されるや瞬く間に世界を席巻し、巨大な社屋と工場群と、そして北海道に前例がないほど多くの雇用を生み出した。
携帯通信端末であり、外科的な侵襲なしに人間の知覚と思考と記憶に直接アクセスできるサイバネティック機器であり、超高性能のコンピューターでもあるq-phoneが、いったいどのような技術を基礎に、どうやって開発されたのか、わかっている人は少ない。
だがとにかく、石狩町の北方の荒れ地にすぎなかったその場所は、四年後には人口百万を数える、新石狩市として生まれ変わっていた。
子供はNQCの学校に通い、大人はNQCの工場やNQCの病院やNQCのコンビニで働いて子供を育てている。
俺たちの世代にはまったく実感のない話だが、日本はこれによって長きにわたるデフレから脱し、技術産業立国として返り咲いたという。
だが。
そんな都合の良い話があるものだろうか。
NQCはq-phoneの超技術を、何と引き換えに手に入れたのだろう。
大人たちは誰も語らず、考えることを避けているようにみえる。
もはや世界は、q-phoneなしには存続できないほどに、変わってしまったからだ。
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