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ナツの父親に連絡した。ナツに何かあったのではないかと、遠回しに尋ねてみた。
うまくいかなかった。
ナツが夜中にふっと出て行って、二、三日帰ってこないことなど日常茶飯事なのだ。ナツの父親はユキのことで心を痛めてはいたが、ナツの心配はしていなかった。
チカに尋ねることはためらわれた。まだ、何もわかってはいないのだ、余計な心配はさせたくなかった。
だから俺は、ナツの送ってきたファイルの一つを開いた。
ユキの捜索に関するナツの行動とその結果が俺の記憶領域に展開された。
それらは、俺自身の記憶と混同されないように、タグとしてナツのイメージが貼りつけられている。それらを想起するとき、俺はナツの身体の中に入ったかのような感覚を味わう。
焦りと不安。そして驚き。
ユキのクラスメートやその父兄に話を聞くたび、そんな感覚がつのっていくのを感じた。
驚きと言うのはユキ同様の事例が、一つや二つではなかったことだ。
ユキの所属していたクラスの生徒三十人、そのうち三人の消息がつかめておらず、その兄弟姉妹にまで範囲を広げると八人が行方不明。去年以前のクラスメートやその家族を含めると、十七人の子供が姿を消していた。
異常なことだ。
子供が消えていることも、その事実が公的には伏せられていることも。
下は乳幼児から、上は中学二年生まで、ほとんどすべての子供が突然姿を消しており、その家族は皆一様に、いなくなる理由が思い当たらないと話していた。
ナツはその記憶に、失踪した子供の名前と年齢、住所、そしていついなくなったかなどををまとめた表を添付していた。
知覚領域に展開。目の前の空間にそれが浮かび上がる。
性別にも年齢にも偏りはない。住所は新石狩市近郊に収まっているが、それはナツの調査がその地域に限定されていたからにすぎないせいかもしれない。
時期についても偏りはない。
三年前の四月十二日から現在にいたるまでの間に、まんべんなく分布している。
ナツはその日付にマーカーを引き、メモを添付していた。
”q-phoneモデル1の発売開始日は四月九日”と。
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