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君からの贈り物
専門学校卒業後、社会人となった僕らは
休みの予定が合わず、自然と会う回数が
減っていた。
僕達が最後に会ったのは2020年1月のこと。
夢に向かって努力する彼女。
今の仕事がやりたい仕事かも分からず
日々悶々と過ごす僕。
すれ違い、焦り、無力。
彼女の事は応援したい。でも…
いつか彼女が遠くへ行ってしまう。
そんな不安がいつも頭を駆け巡る。
そして、2020年2月。
信じられない出来事が起きた。
連日テレビの報道番組が写し出す映像。
乗員乗客3,711人を乗せた
「ダイヤモンド・プリンセス号」。
新型コロナウィルス。
乗客9名、乗員1名がウィルスに感染。
2週間の隔離が決定。
隔離生活2日目、感染者20名。
3日目61人。4日目…
普段テレビを全く見ない僕が
会社から帰宅するとすぐに
テレビをつけニュースを見た。
それでもこの時はまだ
普段と何一つ変わらない
生活を送っていた。
コロナウィルスが猛威を奮い
マスクにトイレットペーパーなど
安心な生活を脅かすように
薬局やスーパーから日常品が
消えていった。
それから3ヶ月が過ぎたある日。
僕の勤めている会社から
在宅ワーク推進の通達が出た。
自宅で仕事ができる環境を整えるため
パソコン用デスク、ワイドモニターなど
必要そうなものを揃えた。
そして、在宅ワーク2日目。
仕事を終え、いつものように
テレビをつけた時、玄関の
インターホンの音が鳴った。
宅配便だった。
ダンボールを開け、箱の中を見ると
「勿忘草押し花キット」と
「一通の手紙」が入っていた。
僕は手紙を取り出し、丁寧に
レターナイフで封を開けた。
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毎日、お仕事お疲れ様。
社会人になって1年2ヶ月。
あっという間だね。
仕事にもやっと慣れ、これから
プライベートな時間を作りたい
そう思ってたのに…
コロナの影響でこの先どうなるのか
めっちゃ不安になる。
でも、私には自信がある。
ずっと好きでいれる自信が…
何があっても負けない。
だからずっと私の彼氏でいてください。
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彼女は芯の強い女性だ。
泣き言ひとつ言わず
まっすぐ前を向いている。
僕達が付き合うようになったのは
彼女からの告白があったからだ。
何をやるにも自信なくて…
周りの事ばかり気にして…
彼女にしてやれることなんて
何一つ無くて…
こんな僕のどこがいいのか?
彼女の手紙を何度読んでも
不安は拭えない。
でも彼女の言うこと信じてみよう。
僕にも信じれるものがあった。
ただそれだけが心の支えだった。
そして勿忘草の押し花キットを取り出し
部屋のどこからでも見えるようにと
テレビ台の上に飾った。
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