1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

航と話をしながらも、侑季は弱いカードを持った相手について、思いを寄せずにはいられなかった。 自分の人生なのに、思った通りに生きられない人がいると航は言ったが、それはどんな人なんだろう。そして、どういう生き方をしてきているのだろう。自分のように居場所を探しているのだろうか……。そんなことが気になって仕方がなかった。 そして、侑季の頭が会ったことのない相手のことでいっぱいになった時に、航が言った。 「侑季に事務をやって欲しいんだ」、と。 キャストに誘われたなら、少し考えてしまったかもしれない。けれども、もう既にレンタル彼氏という仕事に興味を持ってしまっていた侑季は 、二つ返事でそれを引き受けたのだった。 そして、現在では事務員として、レンタル彼氏の運営の一端を担っている。業務は事務ではあるが、単純な事務的作業ではなかった。 レンタル彼氏を利用して楽しくデートをしたいと思っている客はまだいいが、利用を迷っている見込客の中には、悩みや闇を抱えている女性が多い。 深い悩みがあったり、長いこと悩みを抱えていたりすると、『もしも利用をして嫌な思いをしたら……』『悩みを相談したいのに出来なかったら……』『利用したことが周囲にバレたら……』と、全てにおいて疑心暗鬼になってしまう。 そういった客の相談に乗ったり、不安を和らげるのも事務の仕事だった。時にはカウンセリングの真似事をすることもあるため、人の心を学ぶことも始めていた。 その人の向こうにある背景を知って理解を深めるということは、ただ話を聞けばいいというものではない。侑季の何気ない一言が相手を傷つけてしまう可能性もあるため、専門知識を必要とした。 中には侑季にキャストをするよう勧める相手もいるが、侑季はこの裏方の仕事が性にあっているようだった。事務員の侑季は、女性客と直接関わる機会はないはずだが、客の悩みが解消に少しでも役に立てるならそれでいい。 そして、その客と直に接するキャストたちのモチベーションを上げたり、負担を和らげるよう働くことが侑季のやり甲斐に繋がっていた。 この先、自分の人生がどう転ぶのかは分からないが、自分の人生を生きられていないと悩む人や、人生に迷ってしまっている人に手を差し伸べられる人でいたい。そのためには、自分の歩む道を自分で作れる人にならないといけないと侑季は思うのだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!