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人のプライバシーに土足で踏み込んだ挙句、とんちんかんなことを宣ってくれたレンブラントに対して、ベルはつくづくこの人とは噛み合わないのだと痛感した。
でもベルが、嫌悪感丸出しの表情を浮かべても、レンブラントは安堵の表情を浮かべているし、厳つい顔に笑みさえ浮かべている。
はっきり言って怖いし、不気味だ。今すぐどっかに行って欲しい。
「俺はあんたをケルス領から無理矢理連れ出したことを悔やんでいたんだが」
「そんなことを悔やむより、人を罪人扱いしたことを悔いてください」
「は?俺は一度もあんたを罪人として扱っていないぞ。縄で拘束したわけじゃないだろ?客人らしい扱いをずっとしているじゃないか」
心外だと言わんばかりのレンブラントに対し、ベルも同じ表情を浮かべる。
「人に拳銃向けて、鉄格子付きの馬車に放り込んだくせに」
「……まぁ、それは悪かった」
「ご免で済んだら、軍人は不要ですね。今すぐ退役されたらいかがですか?」
「……正論だが腹が立つな」
罪人ではないことがわかった途端、ベルはがっつりレンブラントに噛みついた。
ただ、そんな鬱憤晴らしをしたところで、ベルが抱える疑問が晴れることは無い。
「で、私を連行した理由をお聞かせいただきますか?退役間近の軍人さん」
「……理由は話すが、軍人さんはやめろ。物覚えが悪いお嬢さん、俺の名前はレンブラントだ」
「わざと言ったのがわからないんですか?察しの悪い人ですね」
「なっ……」
ああ言えばこう言う。
ムキになって言い合う二人の精神年齢はほぼ同じだった。
けれど、レンブラントの方が年齢は上だ。
そして大人げないことをしている自覚はあるので、コホンと咳ばらいをして、話を本題に戻すことにする。
「とにかくだ、あんたを連れ出したのはある人に頼まれたからだ」
「国命以外で動いたんですか?軍人が仕事と称して小遣い稼ぎをするなんて世も末ですね」
「話の途中だ。黙れ。……で、どこまで話したんだっけな……ああ、そうそう。俺たちは極秘にとある人の元まであんたを無傷で届ける。で、そのとある人の名は王都に住むレイカールトン侯爵さまだ。で、そのお方は」
ここで一旦言葉を止めたレンブラントは、なぜか小さく咳ばらいをした。
そして酷く言いにくそうに言葉を続ける。
「あんたを妻にしたいと言っている」
「……っ」
小さく息を呑んだベルに、レンブラントは何とも言えない表情を浮かべた。
「まぁ……つまり俺たちは、特命でレイカールトン侯爵さまの婚約者の護衛をしているっていうわけだ」
冤罪なのに連行されたと思っていたら、実は婚約者の元に輸送されている。
この事実にベルは驚きすぎて言葉を失ってしまった。そんなベルを見て、レンブラントはふっと小さく笑う。
「その様子では、どうやら自分に婚約者がいたなんて知りもしなかったようだな」
「……はい」
困惑の色を隠せないまま、ベルはレンブラントの言葉に頷いた。
ベルは18歳だ。結婚をするには決して早すぎることは無い。
だが、これまでの生活で自分が結婚するなどという発想はなかったし、そういうご縁は一生無いものだと思っていた。
けれど実際、ベルを妻にしたいという男がこの世に存在するとなると、悪いことしか考えられなくなる。
「あのう……私、売られたんですか?」
「いや、違う」
「じゃあ、どうしてそのレインなんちゃらさんは」
「レイカールトン侯爵だ。湿っぽい名前で呼んでやるな」
「失礼。レイカールトン侯爵さんは、なんで私を妻にしたいと思ったんでしょうか?」
「さあな」
「……なっ」
急に突き放すようなことを言われ、ベルはあからさまにムッとしてしまった。
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