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目を閉じた暗闇の中、宿題の答えを悶々と考えていれば、膝にふわりと布を掛けられる気配がして、ベルはパチッと瞳を開けた。
「───……おや、起こしてしまいましたか」
視界に飛び込んできたのは、燕尾服をパリッと着こなす執事のガルバルドだった。
手には真っ白なブランケットを持っている。おそらくベルが寒くないようにと、どこかから調達してくれたのだろう。
ただ部屋の暖炉には、薪がこれでもかと詰め込まれているので寒くはない。
「お気遣いありがとうございます。でも、寒くはないですので、これは大丈夫です。あと、起きてました。ただちょっと考え事を......していたような、してないような......まぁ、していました。」
ガルバルドはこの屋敷を取り仕切る壮年執事だ、
父が生きていれば、きっと年の頃は同じだろう。
しかし父より落ち着いているし、物腰も穏やかだし、軍人臭もしないので、ベルは警戒心を持つこと無くガルバルドと接することができている。
対してガドバルドも、ベルを迷惑な居候だと邪険にすること無く、笑顔を絶やすことは無い。
「さようですか。では、ちょうど良かったです。甘いものをお持ちしましたので、どうぞお召し上がりください。チョコレートは脳の疲労回復の特効薬ですから」
「あ、ありがとうございます」
フローチェとラルクは、相変わらず女装ごっこを楽しんでいる。
いやフローチェだけが楽しんでいると言ったほうが正しいのだが、部屋中に「あっははっ、あはははっ!」と元気な彼女の笑い声が響いているので、ラルクが涙目でいても何だか楽しそうに見えてしまうのが不思議である。
「あらベルちゃん、お茶をいただくの?なら、わたくしもご一緒させていただきたいわ」
執事との会話を聞きつけたフローチェが、突然こちらを振り替えって、パッと笑顔になってそう言った。
不意打ちを食らったベルは、思わず目を丸くする。
ガドバルドとコソコソ声で会話をしていたのだが、しっかりフローチェが聞いていたとは驚きだ。地獄耳とは、まさにこのことで。
だが、妙にボディータッチが多くて、妙に世話を焼こうとすることだけが苦手なだけで、フローチェとお茶をすることは、嫌ではない。
むしろ彼女の話は聞いているだけでとても楽しいし、ベルの知らない知識をたくさん与えてくれる。
それに何より、フローチェとお茶をしている時間は、ラルクは女装を強要されることはない。
これまでずっと我が身か可愛さから、カードゲーム仲間を無視していた罪悪感も加わり、ベルは「是非、ご一緒にお願いします」と言って、フローチェの隣に移動した。
もちろんそこに移動したのは、ベルの意思ではない。
絶対的な何かを秘めている女神からの命令でだったもので、ベルは断ることができなかったのだ。
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