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ミランダとレネーナは予期せぬ人物の登場に、唖然としている。
ただ、撫子色のかつらをかぶったラルクは、誰がどう見ても、育ちの良いお嬢さんにしか見えなかった。
だから義理の姉二人が言葉を失っているのは、自分達のアテが外れたことに対して呆然としているのだ。
対してフローチェは、アホ面をかますミランダとレネーナににたりと意地の悪い笑みを浮かべるとラルクに声をかけた。
「─── さぁ、お客様にご挨拶なさい」
「......」
フローチェに命じられても、ラルクは口を開かない。
そりゃあそうだ。一言でも声を発したら、これが女装だということがバレてしまうから。
しかし、フローチェは容赦ない。
「あら、どうしたの?緊張しているのかしら??さぁ、あなたに興味を持ってくれたお客様よ。失礼が無いように、ちゃんとご挨拶しなさいな」
そう言ってラルクに自己紹介を促すフローチェは、微笑んでいる。
だがその目は控えめに言って、良く切れる刃物のようだった。
「......ラルク、がんばれ」
ボソッと呟いたのは、ノアではない。隣にいるモーゼスだ。
ついさっき彼から黙れと嗜められたことを思い出したノアだけれど、自分も同じ気持ちだし、この程度の声量なら隣の部屋まで聞こえることもない。
それに何より、ノアとてモーゼスと同じ気持ちだ。
いや、この部屋にいる護衛騎士達だってそうなのだろう。祈るように手を組み憐憫と激励が入り交じった視線をラルクに向けている。
そのエールが壁の向こうに届いたのだろうか。
ラルクは意を決したように、拳をぎゅっと握ると口を開いた。ちなみに彼の唇にはうっすらと紅が塗ってある。それがまた妙に涙を誘う。
「はじめまして。ラルク・ゼノアと申します」
迷いを振りきってそうきっぱりと己の名を告げたラルクは、妙にカッコ良かった。
すぐさま横にいるモーゼスが「良くやった。お前は男だ」とこれまた小さな声で呟く。背後にいる護衛騎士も音を鳴らすこと無く拍手を送っている。
しかし、アテが外れて、しかも自分の妹だと思い込んでいた人物がまさかの男だったことにミランダとレネーナは、馬鹿にされたと思ったのだろう。
実際には本当にコケにしたのだが、とにもかくにも二人は憤怒の表情を浮かべた。
「......こ、これは一体......な、な、な、なんですの!?どうして女装しているの!?」
「この人、男なのに何でドレスを着ているの!?嫌だっ、気持ち悪い!!」
気持ち悪いと言われたラルクの目にうっすらと涙が浮かんでいるのが、鏡越しに見えた。
(ああああ、ごめんなさいっ。ラルクさん!!)
ベルは申し訳無さすぎて、壁の向こうにいる彼にペコペコ頭を下げる。
そして彼にはお詫びと感謝の気持ちを込めて、タレ多めの肉串を山のように贈ろうとベルは心に誓った。
しかし今は、この場をフローチェがどう収めるのか見届けたい。
ちなみに義理の姉二人から怒鳴り付けられたフローチェは、大変涼しげな表情でいる。
「女装?あら嫌ですわ。これは、ユニセックスという新しいファッションですわ」
そう言ってふわりと笑ったフローチェは、やおらソファから立ち上がるとラルクの隣に立った。
「ふふっ、良くお聞きなさい、ファッションに疎いお嬢さん達。ユニセックスとはね、男性、女性の区別のないことを表す言葉。ファッションにおいては、古くさい概念を取っ払って、己に似合うものを身に付けるという意味なのよ。そこに男だからとか、女だからとかっていう概念は邪魔でしかないわ。───さぁ、見てごらんなさい、この青年をっ。非の打ちどころが無いくらい美しいでしょ?」
息継ぎなしに言い切ったフローチェに対し、義理の姉二人は同時に声を揃えてこういった。
「......なにそれ」
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