【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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「……ダミアンさん、なぜここに?」 「あそこの屋敷には、会いたくない人……っていうか苦手な人がいるから追いかけて来ちゃった」  苦笑を浮かべて気さくに答えるダミアンだけれど、ベルの肩を掴んだ手は離さない。  それを苦々しく思いながら、ベルはため息交じりに口を開く。 「あなたどれだけ人に嫌われるようなことをしているんですか?」 「あのねぇ、僕はこう見えてもレンブラントより敵は少ないよ。ただ、僕にとって数少ない苦手な人が勝手にあの屋敷に住みついちゃっただけ。ったく、自分だって好き勝手なことしてるのに、なんで僕だけ……ってまぁ、いいや─── とにかく苦手な人があそこに居たって、僕はベルちゃんを連れて帰るからね」   そんな一方的な宣言をしたダミアンは、ノアの肩から手を離したと思ったら、今度は腕をむんずと掴んで歩き始めた。 「ちょ、ちょっと、やめてください!」  どっかの銀髪軍人のような荒々しい行動に、ベルはつま先に力を入れて足を踏ん張る。それと同時に掴まれている手を外そうとする。  でも、ダミアンの力は物凄く強くてベルは引きずられるように歩かなければならないし、掴まれている手は溶接されてしまったかのように剝がれない。 「……ベルちゃんあのね、ここはとっても危険なんだ……君は命を狙われている」  誰にも聞かれたくないのだろう、ダミアンはかなり声を落として、囁くようにベルに言う。  しかし、そこらの18歳の女の子より肝が据わっているベルは、表情を変えることはしない。 「フローチェさんだって、危険な状態なんじゃないんですか?……ダミアンさん、まさか見捨てる気ですか?」 「……フローチェのことは大丈夫、何とかする。だから屋敷に戻ろう」 「私にカードゲームで一度も勝てたことがないくせに、偉そうなこと言わないでください」  一方的な物言いは、たとえ血のつながりがある人間でも受け入れられない。  いや、つながりがあるからこそベルは強い拒否反応を持った。だから敢えて煽るようなことを言った。  けれども、今日に限ってダミアンは動じることがない。 「確かに僕はカードゲームでは惨敗続きだけれど、ベルちゃんが何を考えているかぐらいはわかる。……フローチェを助ける代わりに、君が身代わりになる気なんだろ?」 「どうしてその読みをカードゲームに活かせないんでしょうか……残念でなりません」 「これは正解と受け止めて良いんだね。僕の心はちょっと抉れたけど、この手は離さないよ」  どこまでも冷静に対応するダミアンの表情は、見たこともないほど厳しいものだった。  そして周囲をくまなく警戒している。掴まれている腕は、彼の指が食い込んでいてかなり痛い。  その痛みはダミアンが”何があってもこの手を離さない”と、強く訴えかけている。  ベルはリードを無理やり引っ張られている飼い犬とは、こんな気持ちなのかと舌打ちしたくなる。  だがしかし、このタイミングで思わずポンと手を打ちたくなる妙案が浮かんだ。  それは乱暴なダミアンに意趣返しができて、かつフローチェの居場所もおそらく最短で見付けられるものだった。 (ダミアンさん、ごめんなさい!でも、これも身内のよしみでどうか大目にみてくださいね)  一応ベルは心の中でダミアンに謝った。……仕返しとはいえ、かなりエグイものだから。  そして気持ちを切り替えると大きく息を吸った。
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