【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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(……ああ、この人たちはある意味切れない絆を持っているんだ。きっとこれからもずっと一緒にいるんだろうな)  ケルス領で私利私欲の為に悪行三昧の日々を送っていたこの5人は、同じ顔をしている。  ミランダとレネーナがフロリーナに似ているのは親子だからそりゃ当然だ。  でも、ケンラートとクルトは一滴だって同じ血を引いていないのに、まとう雰囲気が一緒のせいで本当の家族にしか見えない。  きっと罪を重ねる度に、どんどん似てきたのだろう。  そんな悪行を重ねてきた家族を改めて目にして、ベルはやっぱり彼らのことは心底嫌いだと思う。かつて歩み寄ろうとした自分まで嫌悪してしまうほどに。 「さぁ、ベル。頷きなさい、今をもって辺境伯を引き継ぐ、と」  フロリーナは怒鳴ることはないが、自分がなかなか頷かないせいで口調は焦れている。  それにしっかり気付いているベルは、敢えてここで主張をしてみた。 「その前に、フローチェさんを離してあげてください。彼女は部外者です」  やりたいことはある。叶うことなら、ずっとやりたかったことがある。そして今、やろうと決心している。  けれども、女神の安全を確保することが最優先だ。  これはまだ取引の段階だ。恫喝じゃない。だから主張を通すのは今しかないとベルは読んでいる。  しかし、それは少々考えが甘かった。 「そうね。そうしてあげたいけれど……ふふっ、ごめんなさいね、ベル。ちょっとわたくし、お喋りが過ぎたみたい。あのお嬢さんには悪いけれど、聞いてしまってはいけないことまで聞いてしまったのだから帰すことはできないわね」 「なっ」 「あら、そんな顔をしないで。あなたにだって罪はあるわ。わたくしを怒らせたから、つい余計なことまで喋ってしまったの。これも全部自業自得。ほら、きちんとあそこにいるお嬢さんに謝りなさい」  フロリーナが手のひらで指示した方向には、女神がいた。  薄暗い廃墟の中でも一際美しい彼女の顔は、こちらの胸が痛むほど青ざめている……と思いきや、「良かろう、なら、その喧嘩買ってやる」と言いたげにギラギラとフロリーナを睨みつけていた。 (さっすが、女神。そこいらの女性とは格が違う)  ベルは心の中で拍手した。内心、女神が泣いていたら、この場でフロリーナの喉首を搔っ捌いていたところだ。 (ま、おかげでこれからやることに良心の呵責を覚えずに済みそうだ)  ぎゅっと握り拳を作ったベルは、身体ごとフロリーナと向き合う。  最後に、この憎らしい女にどうしても聞きたいことがあった。 「ねえ、義母様。一つ聞いても良いかしら?」  答えてくれたら要求を吞むというニュアンスを含ませてベルが問えば、フロリーナは嫌々ながらも続きを促す。 「私のお父様───ラドバウトを殺したのは義母様の指示だったの?」 「ええ、そうよ。私が事故に見せかけて、殺すよう命じたのよ」  なんで空は青いの?なんで鳥は空を飛べるの? そんな子供の無邪気な質問に答えるような口調で、フロリーナは己の罪をあっさりと吐露した。
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