【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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事故死なんかじゃない。父親であるラドバウトは、他殺だった。  父親の真相を知って、さすがにベルは動揺を隠すことができなかった。たとえ読み通りだったとしても、その衝撃は言葉にできないものだった。 「ふふっベルったら......今頃そんなことを聞いてどうしたっていうの?」  フロリーナは意地悪く笑う。自分の発言でベルが顔色を失ったことが楽しくて楽しくて仕方が無いようだ。  そして毒々しい真っ赤な唇は、言葉を紡ぎ続ける。 「もう、あの男はすでに事故死として処理されているのに。今さらそれを蒸し返したって、どうすることもできないわ」  真相を知ったところで死んだ人間はもう戻らないと言いたいのか、王直属の自警団が下した結論を覆すことなどできないと言いたいのか。  ベルはどちらなのか判断ができなかった。  けれども、一つだけ確実にわかったことがあった。   (これで......躊躇いが無くなった)  万に一つでも父が本当に事故死だったら、これからやろうとすることにベルはわずかばかりの罪悪感を覚えてしまっただろう。  でも、もう目の前にいる人間にたいして、一欠片も情を持たなくて済む。そして、その為に自分は父親の死の真相を問うたのだ。  結果として望む答えが返ってきた。今、動揺しているのは自分の心が未熟なだけ。  だからベルは、笑った。全てを振り切るかのように、晴れ晴れと─── そして、勢いよく地を蹴った。  ベルのドレスの裾がヒラリと舞う。蝶のように、花びらのように。  それはまるで異国の演舞を見ているかのように優雅な動きで、ここにいた全員がその動きに一瞬だけ目を奪われた。  でも、その一瞬が明暗を分けることになる。  ─── ドンッ......バタ、ズサッ。  鈍い音と床から伝わる衝撃は、ほぼ同時だった。  フロリーナに背を向けたベルは、あっという間にフローチェを取り囲んでいたごろつき達を蹴り倒した。  次いで、素早くドレスのポケットから短剣を取りだし、フローチェの拘束を解く。  ごろつきは他にも沢山いる。そして、こちらへと向かってきている。  護衛騎士達まで拘束を解く時間は無いと判断したベルは、手にしていた短剣をフローチェに押し付けた。 「あとはお願いしても?」 「ええ、こっちのは任せて」  阿吽の呼吸で頷いてくれたフローチェに、ベルは「さすが女神!」と心の中で褒め称える。  しかし、ごろつき達は拍手をする時間すら与えてくれない。   もちろんベルとて、そんな気の効いた連中ではないことは存じているため、しっかり応戦する。ついさっき蹴り倒した男の一人が手にしていた剣を失敬して。  きっとレンブラントがこの場にいたら感嘆の口笛を吹くこと間違いない。  対してフロリーナを始めケルス領で悪事を働いていた一家は、ここで反旗を翻したベルに唖然とするしかなかった。
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