悪魔の笑顔

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それが6月13日という、思い出したくもない出来事だ。 そう、この日は上井が亡くなった日なのだ。 そんな当時の事を僕は優子の「ねぇ、覚えてる?」の一言で全て思い出していた。 それから月日は流れたけど犯人はまだ捕まっていなかった。 僕も僕で色んな情報などを集めた。 色々な情報も集まり、色々な仮説も立てたが、真実にはまだ到達はしていない。 そして今2年前と同じように僕は図書室にいた。 この日は僕がレポートをするためだ。優子は出来ていたが、付き合ってくれているだけ。それはまるで2年前と同じ様な風景だった。 ただ違うのは、そこに居るのが上井ではなく優子になっている事。そして、あの時は監視役として僕がいたけど、今日は優子が監視役になっている点だ。 なんとなくまた2年前と同じように4時に帰ることにした。 学校から駅まで僕と優子は無言だった。 今日は上井の命日。あまり話をする気にもなれなかった。 電車の中も無言だった。というよりも話しかけられるのを防ぐように、僕は本を見ていた。 読んでいるわけではない、見ていただけだ。 正直本の内容なんて頭に入ってこなかった。 目的地の場所、すなわち僕と優子の家の最寄り駅に着いた。 僕と優子は改札を出て静かに挨拶をした。 「じゃあ、優子。また明日な」 僕は本を読みながら、優子に目線を合わせないように素っ気なく言った。 優子とは帰り道は逆方向。 僕は下を向きながら歩き出した。すると、後ろから優子の声が聞えた。 「危ないよ、本見て帰ったら!」 僕は立ち止まって振り返った。 「大丈夫。ここ田舎だから。こんな時間にぶつかる相手なんていないよ」 そう昔の上井と同じように優子に言う。 「ダメだよ。そんな事したらまた愛ちゃんみたいになっちゃう」 「どういう事?」 「どういう事って、そんなのもわからないの! 私はもう大切な人を失いたくないの!」 少し大きな声で、今でも泣いてしまうような表情を優子はしていた。 それを僕は真顔でじっと見ていた。 「いや、違うよ。そういう事じゃない。今愛ちゃんみたいになるって言ったじゃん。まさか僕が刺されるとでも?」 「うん。そうだよ。だって今日は愛ちゃんの命日だよ。そんな日に愛ちゃんととか、絶対ダメだよ。なんか不吉だよ」 優子の頬には涙が薄らと流れていた。 僕は本を片手でパタンと閉じて、無表情でこう言い放った。 「優子。上井を殺したの、お前だろ」 直後、優子はヒステリックになにか叫んでいた。 ただ僕の冷たい視線はそんなのに動揺するわけでもなく、じっと優子の目を見ていた。それはナイフで刺すような眼差しで。 少し夕日が差し掛かった赤い空。 その赤い光に照らされた優子は、顔を両手で覆っていた。 ただその照らされた光の中、両手のほんの僅かな隙間から、チラリと笑っている口が見えた。 その優子の表情はまるで悪魔の笑顔だった。
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