第1話 ちょうどいい結婚

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第1話 ちょうどいい結婚

「はぁぁぁぁ」 会員制のスパ、ドライサウナの温度計は80度をまわっていた。中年期を過ぎた男性二人、大きなため息を吐き頭を垂れていた。 「ああ、頭が痛い」 「全く。どうして息子というのはあんなに思い通りにならないのか」 「娘もだ」 「お互いに苦労するなあ、愛ちゃん」 「何とかならんもんかな、勇ちゃん」 この日もいつも通り、二人は悩みを吐露してサウナを出る筈だった。 「そういえば、功至君はいつから独立を? まだ報告は受けていないが」 「後任を見つけ次第と言っていたかな。そう遠くはないはずだ」 ここはプライベート空間なので会話は非公式である。 「そうか。その時に千幸も連れて行ってくれたらいいのに」 「そりゃいいな。そのまま二人まとまらんか」 「ははは」 「ははは」 二人はピタリと笑うのを止め、顔を見合せた。 「愛ちゃん!」 「勇ちゃん!」  二人は手に手を取った。 「そうだ。どうして今まで気がつかなかったんだ」 「いやいや、全くだ。これはもしかすると、もしかするぞ、愛ちゃん」 「ああ。我々の肩の荷が下りるというものだ」 「こういうのは女性側の意思を尊重すべきた。千幸ちゃんが良いと言えばうちも功至に話を通そう」  二人はほぼ決まった気でいた。実際に会ったことのある二人ならうまく行くに違いなかった。  年々気難しくなるとはいえ、自慢の息子を気に入らない女性などいないのだから。勇太郎はそう思い、愛一郎もまた、自慢の娘を気に入らない男性などいないのだから。そう思っていた。
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