第8話 ちょうどいいので結婚します

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 千幸は、功至の様子に首を傾げた後、ベッドを見て割と卑猥な想像をした。寝室は一つ、ベッドも一つだ。ここは一番功至の匂いがする。羽布団の片方の裾が床に着きそうで、持ち上げた。動かすと香りが鼻腔に届いた。 「功至さんの香りがする」  思わず、布団に顔をうずめた。数秒後、バッと顔を上げた。 「な、何をやってるの、私ってば」  千幸は慌ててその空間から逃げるようにソファに戻った。パタパタと手で熱くなった顔に風を送った。布団の匂いを嗅ぐなんて。そんなことしなくても、功至さんに抱きついて、直接嗅げばいいのじゃない。と、功至が風呂から出てくるのを待ち遠しく思っていた。  自然と耳の意識が功至の方へ向かってしまい、気にしないように努めた。功至の声が聞こえた気がする。気のせいだろうか。 「今、誰かと喋ってた?」 「いいえ」  功至が風呂から出るとすぐに聞いてしまったが、気のせいだったらしい。功至は、ちらりと千幸に目を向けると 「ちょうどよかったね、そのシャツ」  と、千幸の着ている功至のパジャマのシャツに言及した。 「ちょうどいい? そうかな。大きくて、ワンピースみたいに」 「うん。だから、ちょうどいい。この前のシャツワンピースも可愛かったけど」  良一セレクトのシャツワンピースのことだ。千幸は良一の見立ては当たっていたのだと、笑ってしまった。 「もしかして、好きだった?」 「うん。まあ、何でも好き。千幸(ちゅき)ちゃんが着てるなら」 「ふうん。じゃあ。これにパンツ履くか、レギンス履いてもいい?」 「だめ。絶対だめ。俺、あれ嫌い」  千幸は、なるほどと笑った。 「私が着てるならなんでもいいんじゃないのね」  功至はそれには聞こえないふりをした。
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