第一章 念願の街へと

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 「私ですか?」  麻里(まり)は思わず()き返していた。  「ああ、急で申し訳ないが、君で決定だ。即座に出国の準備をしてほしい。  こちらでも異動の時期になるから、同じようなものと考えてくれていい」  (さすがに違いすぎでしょう)  心の中で思っただけで、麻里は表情には出さなかった。  海外赴任を望んで、ずっと希望を出していた。でも、まさか五年目で(かな)うとは思わなかったから、喜ぶ気持ちよりもとまどいが彼女には強かった。  しかも、この抜擢(ばってき)には事情がある。  赴任をするはずの社員が急病で入院したのだ。病気はそれほど重いものではないけれど、さすがに海外勤務は無理になる。  そこで、数人の候補者がピックアップされて、その中から麻里が選ばれたわけだ。  ずっと希望を出していたことと、英語が堪能(たんのう)で候補者の中で唯一の独身。急な赴任にも対応できるというのが決め手のようだった。  そして、さらには唯一の女性候補。キャリア形成に男女は関係ないというアピールにもなる。
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