◆プロローグ   双子が見つめる先には

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◆プロローグ   双子が見つめる先には

 三ケ原(みがはら) 光時(こうじ)に従兄弟ができたのは八歳のときだった。  すでに子供っぽい遊びも感情も卒業しようとしていたその時に、水っぽくふくれた二人の乳児を見せられる。ただただ眠るその顔を覗いた光時に叔母が言った。 「双子の兄弟なの」  光時が頷く。子供に似つかわしくない憂いを含んだその眼差しは、乳児を見て優しい弧を描いた。 「叔母さん、名前は決まったの?」 「ええ。お兄ちゃんの尚桜(なお)と、弟の理桜(りお)よ。よろしくね」  光時は顔を上げて、きらきらと輝く瞳で笑った。 「尚桜(なお)理桜(りお)、たのしい人生にようこそ!」  三ケ原両家は、家も電車で三十分ほどと比較的近く、頻繁に集まっては食事をしたりと仲の良い親戚付き合いをしている。  八歳の差がある従兄弟だったが、一人っ子の光時はまるで兄のような存在になり、よく二人の面倒を見た。  三人のやりとりを、大人は微笑ましく見守っている。  * * * 「コウちゃん!」  尚桜が光時の背中を見つけて呼び止めた。  黒い詰襟の制服をすらりと着こなした光時が振り返るなり、驚きに目を見開いて尚桜に駆け寄る。 「な……尚桜、どうしたんだよ!」  光時が驚いたのも当然だ。  尚桜は小学校の制服に身を包みランドセルを背負っていたが、右手は泥だらけの理桜の手を握っている。  理桜の制服は汚れて首元のリボンがほどけ、髪の毛は土が付き艶やかさが失われていた。  グッと身を乗り出した尚桜が悔しそうに切り出した。 「さんすうができないからって理桜が叩かれた!」 「誰に?」 「しょうまくんに! バーンって! ランドセル持って、ぎゅってされて!」  光時の知らないショウマ君の悪行を身振り手振りを交え必死に伝えようとする尚桜を落ち着かせながら、光時は理桜の肩を叩いた。 「理桜、ケガないか?」 「……」 「理桜?」  理桜は小さな身体を震わせると、尚桜と繋いでいた手を離し無言のまま進み出て、光時の腰に抱き着いた。 「ふぅ、うう」  耐えるように声を上げ、制服に顔を押し付けて嗚咽を漏らしている。光時の腰回りが理桜の吐息で温かくなっていった。  その時、一人の少女が近寄ってきた。光時と同じ中学校の制服を着用している。気まずそうに「光時(こうじ)……」と声をかけ、首を掻いた。  光時は理桜の頭を撫でながら振り返る。 「従兄弟が困ってるから、ごめんな、マユ」 「で、でも……今日はデートしようって……」 「うん、ごめん」  マユが言い切らないうち遮るように光時が言った。マユは言葉を飲んで複雑そうに頷く。  理桜は声を殺して泣いている。しゃがんで目線を合わせた光時が小さな身体を抱きしめた。 「理桜、泣かなくていいよ。俺がついてる」 「コウちゃん……ッ」  優しい言葉に理桜の涙は反応し、なおさら零れ落ちていく。ぽん、ぽん、と優しく体を叩きながら、光時が何度も「大丈夫、大丈夫」と囁いた。
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