30人が本棚に入れています
本棚に追加
誕生日に帰って来る父
「ママ、パパはまだ?」
私は再び玄関を覗きながら、その日何度目かの質問を母に投げかけていた。
「理紗……まだよ」
その日は私の十一歳の誕生日で、私は父の帰宅を本当に心待ちにしていた。父は一年の大半を海外で暮らしていて、年に一度しか帰国しない生活をもう何年も続けていた。
だけどいつも私の誕生日にはプレゼントを両手一杯に抱えて帰って来てくれる。そんな父と過ごす誕生日を本当に楽しみにしていた。
リビングのインターフォンが鳴った。
「パパだ!」
リビングを飛び出して玄関へ向かう。丁度、父が玄関のドアを開けた所だった。私を見つけた父の顔が笑顔に包まれる。私が父に思い切り飛び付くとギューっとハグしてくれた。
「理紗! また大きくなったな!」
私は父の胸に顔を埋めて大きく頷いていた。
「パパ、帰って来てくれてありがとう! 大好き!」
その日は母が用意した夕食とケーキが並ぶ食卓で、父と本当に楽しい時間を過ごした。この時が私にとって最高に幸せな瞬間だった。
―――
その翌年、十二歳の誕生日の前日。私は翌日の父の帰国を心待ちにして自分の部屋で宿題をしていた。午後五時を回った頃だった。突然、母が私の部屋にやって来た。
「ママ、どうしたの?」
少し暗い表情を浮かべた母の口からは想像していなかった言葉が飛び出した。
「理紗……。裕人さんは明日、帰って来れないって……」
私は椅子から飛び上がって母に詰め寄った。
「何で!? 私の誕生日なのに!!」
その時の失望は計り知れなかった。そして一ヶ月後、やっと帰国した父に、まだ怒っていた私は今まで毎年言っていた『大好き』って言葉を初めて言わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!