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天界のおもてなし
むかしむかし、小さな家にラビーウという少女が住んでいました。ラビーウは両親と生まれたばかりの妹と四人暮らしでした。
暮らしは楽ではありませんでしたが、ラビーウは優しい両親と可愛い妹がいて幸せでした。
青空が広がる中、ラビーウは母親を助けるために食べれる草を採りに山へと行きました。
「これだけあれば食事には困らないわね」
ラビーウはかご一杯になった草に満足しました。
三人のお腹を満たせると考えるだけで安心感がわきます。
「さて、帰ろうかしら」
ラビーウはかごを背中に背負い、元来た道を歩いていきました。
その時でした。羽根を生やした少女が木元に座り込んでいました。話で聞いたことがあります。天使です。
ラビーウは天使を初めて見ました。
「いてて……」
天使の羽根には矢が刺さっていました。恐らく鳥を狩る狩人が誤って撃った矢に当たったのでしょう。
「大丈夫? 手当てをしてあげる」
ラビーウは羽根に刺さった矢を取り、持参していた薬草を塗りました。
しばらくすると天使の顔は柔らかくなりました。
「有難う、助かったわ」
「どういたしまして」
天使の明るい言い方に、ラビーウはつられました。
天使は立ち上がり、ラビーウの両手を掴みました。
「わたしはエアル、あなたはわたしの命の恩人ね、是非お礼をしたいわ」
「えっ……でも私は家族の元に帰らないといけないの」
ラビーウは言いました。
「心配しないで、ちゃんと連絡はしておくから、あ、あなた名前は?」
「ラビーウだけど」
「じゃあラビーウ、早速天界に行きましょう」
ラビーウがとまどっている間にも、ラビーウは羽根を羽ばたかせたエアルによって天界に連れていかれました。
天界は花畑におおわれ、エアルと同じく羽根を生やした天使が飛び交っていました。
「わぁ……」
きれいな光景にラビーウはかんげきしました。天界は人間が来れる所では無いのです。
ラビーウの両親や妹にも見せたいくらいです。
「こっちだよ」
エアルに手を引かれ、ラビーウはエアルに連れていかれました。
エアルはラビーウの手当てのおかげですっかり元気になったようです。
そこには見たことのないほど大きな屋敷が建っていました。エアルは金持ちの天使なのかも、とラビーウは思いました。
屋敷に入ると、羽根を生やした年配の男の人がいました。
「お父様! 今帰ったわ!」
「おお、エアル、おやその人は誰かな」
「ラビーウって言うの、人間だけどわたしを助けてくれたの」
エアルは言いました。エアルの父親はラビーウに近づきました。
「ラビーウさん、娘が世話になったようで、有難うございました」
エアルの父親はラビーウに頭を下げました。
「いえ……私は当たり前のことをしただけです」
ラビーウは言いました。
ラビーウは人間や天使だけでなく、動物が怪我をしていたなら助けたでしょう。
「ねえ、お父様、ラビーウにお礼をしたいからお茶やお菓子を出しても良いかしら」
「そういう事なら、ケヴァットさんにたのみなさい」
「うん、分かった」
エアルは父親からラビーウに目を向けました。
「ラビーウ、一緒にリビングに行こう」
「ちょっと待って」
ラビーウはエアルを止めました。そして背負っている草入りのかごをエアルに見せました。
「この草を私の家族の元に届けて欲しいの、でないと家族がお腹を空かせてしまうから」
ラビーウは真剣に言いました。
この草が無ければ家族の食事ができないでしょう。それだけはさけたいです。
「分かったよ。ちゃんとラビーウの家族に届けるよ」
エアルはかごを受け取って言いました。
それからラビーウは屋敷のリビングでエアルを助けたお礼をかねておもてなしを受けました。メイドのケヴァットさんが作ってくれたお菓子と天界の紅茶はとても美味しかったです。
エアルは色んなことを話してくれました。好奇心で人間界に来てたこと、天界のことなどを、ラビーウはエアルの話を聞いていて楽しい気持ちになりました。
ラビーウは自分の家族のことや人間界のことなどを語りました。よほど珍しいのかエアルはラビーウの話に夢中になって聞き入っていました。
夕方になった頃でした。ラビーウははっと気づきました。
「いけない! そろそろ帰らないと!」
ラビーウは言いました。
「えっ、帰るの?」
エアルは少し悲しげな表情になりました。
「家族が心配するから」
「せっかくなんだし、もう少しここにいてよ、ケヴァットさんの夕飯とっても美味しいから」
エアルは言いました。
「ラビーウさん、私からもお願いするよ、エアルはラビーウさんを気に入ったみたいだからね、ラビーウさんの家族には連絡はしておくから」
エアルの父親はラビーウを安心させるように言いました。
「……分かりました」
「やったあ!」
エアルは本当に嬉しそうに言いました。
ラビーウはケヴァットさんが作った美味しい夕飯を食べてから、客室に行き休むことになりました。客室はラビーウの家よりはるかに広くてきれいです。
とんでもないことになったな、とラビーウはベッドに横たわって内心で思いました。
家族に連絡はしてくれてはいるとは思いますが、正直早く家に帰りたかったです。それでもエアルの申し出を断らなかったのは、天使を怒らせるのは良くないと言われているからです。
天使のげきりんに触れた者は、その後不幸になるとされています。
天界に来た日を含めて二日間、ラビーウはエアルに天界を案内され、友人の天使を紹介されたりと天界をめぐりました。
小さな村で育ったラビーウにとって天界は新しいものだらけで見ていて楽しかったですが、人間界でラビーウを待つ家族のことを考えると帰りたい気持ちもありました。
「三日間お世話になりました」
三日目の朝、ラビーウは人間界に帰ることになったのでエアルの父親とケヴァットさんにお礼をいいました。
「いや、こちらこそ楽しかったよ」
エアルの父親は言いました。
「また遊びに来てね、いつでも歓迎するわ」
ケヴァットさんは言いました。
「あ、そうそう、これを渡しておくわね」
ケヴァットさんは白くて大きな袋を渡しました。
「これは?」
「私の手作りのお菓子を入れたわ、ラビーウさんの家族にあげてね」
「有難うございます」
ラビーウはケヴァットさんから白い袋を受けとりました。ケヴァットさんの料理は美味しかったので楽しみです。
「エアル、ちゃんとラビーウさんを家族の元に送るんだよ」
「大丈夫! ちゃんとやるから」
エアルは明るい顔で言いました。
ラビーウはエアルの父親とケヴァットさんに見送られ、屋敷を出ました。
ラビーウはエアルに連れられ、二日間過ごした天界を後にしました。
「天界はどうだった?」
エアルはラビーウに聞きました。
「とても良かったよ」
ラビーウは言いました。これは本心です。
「なら嬉しいな」
エアルは明るい声で言いました。
二人は人間界に来て、ラビーウが住む家の近くに降り立ちました。
「ここで平気かな」
「うん、大丈夫」
ラビーウは言いました。
「それじゃあ、また遊びに来るから」
「またね、おじさんとケヴァットさんに宜しく伝えてね」
エアルが手を振ると、ラビーウも手を振り返しました。
エアルは羽根をはばたかせて空へと飛んでいきました。
ラビーウは家へと続く道を進みました。少しすると見慣れた家に着きました。
ラビーウは緊張で胸がどきどきしました。エアルの父親が連絡を入れてるとはいえ、三日も家を離れていたからです。
ラビーウは意を決し、ドアノブを回し家の中に入りました。
「ただいま」
ラビーウは一言言いました。料理を作っていた母親がラビーウの方を向いて笑いかけました。
「お帰りなさい」
ラビーウの胸は温かな気持ちになりました。
夕飯時は家族四人で囲んで食べました。食卓にはラビーウが摘んできた草の料理が並びます。
ラビーウは天界で過ごした時間や感じたことを話しました。両親はラビーウの話を真剣に聞いてくれました。妹は楽しそうに笑います。
天界は素晴らしかったですが、やはり元いた家が安らぐなとラビーウは感じました。
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