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落ち込んじゃう
(え? ちょっと待って。なにこれ?)
目を疑ってしまった。二度見する。え、待て待て。ちゃんと見てみよう。三度見四度見五度見する、が……⤵︎。
「はい、これ今日渡した期末テストの結果な、家に帰ったら保護者の方に見せることー。ちゃんと現実を受け入れてもらってから押印なー」
いつもなにかにつけてちょっとしたイヤミをぶち込んでくる、担任ヤブちゃん先生の、今にもひっくり返りそうな声を遠くに聞きながら、私はこの日。返却された答案用紙を、ただただ見つめていた。
「おまえらもこの夏休みはしっかり勉強すること! 現実から目をそらすな! 以上!」
現実? これが現実だと? だとしたらもうこのまま現実逃避させてくれぇ!
理想とはほど遠い点数の羅列、そのどれをとっても平均を微妙〜に……いや大幅に下回っている事実に、答案用紙を握っている手がじっとりと汗ばんでいくのを感じていた。
あぁあ……あんなにもあんなにもあんなにも(盛りすぎか)時間をかけて勉強したのになんでなん? ママに殺される。いや、それは言い過ぎた。でも確実におこづかいは減らされるの刑。
だめだめな答案を前にぼう然としているうちに、クラスのみんなはカバンを抱えて早々に帰っていく。それぞれテストの結果と夏休みの課題の多さに対する愚痴や怒りをこぼしつつ。はっと気がつくと、教室には数人の女子しか残っていなかった。ぽつん。
「どうしよう……ってかこれもうどうしようもない……けどどうしよう」
私は震える気持ちを落ち着けようと、机の横に掛かっているカバンを机の上に置いた。フタを開ける。軽いはずのフタもなぜか重量級の重さ。のろのろとカバンの中身を整えていると。
「ねえミユミユ、夏休みのボランティアどうする?」
クラスで一番賢くスマートな女子で幼なじみの佐倉リンが声を掛けてきた。私は教科書を入れていた手を止めて、リンの方へと顔を向ける。
「うーん、なんかひとつはやらなきゃいけないなあって、思ってはいるんだけど……」
「ミユミユは内申、稼いだ方がいいもんね」
「う……ま、まあね」
今まさにそう心に誓ったところですが……そんな風にハッキリ言われちゃうと身も蓋もない。
けれど、どれだけ勉強してもそれがなかなかテストの結果に結びつかない私としては、勉強以外のことで内申点を上げていくしかないのも、また事実。くっ。
「今回のテストも最悪だった。いいなあリンは頭良くって。私なんてテスト勉強、自分ではめっちゃ頑張ってるつもりなんだけど」
「うーん、やり方の問題じゃね? ミユミユは要領悪そうだし?」
あーうん。リンのさらなる図星な言い方に少しだけムッとしながらも、私は止めていた手を動かして、カバンの留め具を掛けた。
「これでも試験範囲、私なりに押さえてるんだよ? それにちゃんとやってるのに頼むから勉強してくれって、ママに懇願されるのも……なんかムカついちゃって」
リンは、気の毒そうな顔を浮かべながら言った。
「そっかー。うちのママは勉強しろってうるさく言ってこないからなー。その点、気が楽かも」
「そりゃ、リンの成績だったら口出しなんてできんでしょ。完璧じゃん」
以前に一度だけ見せてもらったことのある、100という美しい数字が横一列に並んだ定期テストの成績表。その中に、ひとつだけ98点というのがあって、そのマイナス2点にいったいなんのドラマがあった⁉︎ と、逆に気になってしまうくらいだった。
「まあね。私、勉強は頑張ってるもん。だったら、やっぱミユミユはボランティアやった方が良いね!」
リンが失笑するのを見て、私はさらに胸がモヤッとするのを感じた。そのモヤモヤ感を全面に押し出してみるとこうなる。
「でも、ボランティアなんて一円のお金にもならないことやって、なにか得することがあるんかね? 意味わかんないわ!」
「んー? まあね。得することなんて、うちらは内申⤴︎くらいかなあ。だけど、ミユミユはそれが重要じゃん」
胸の中にさらなる暗雲が立ち込めていく。
「む。そだね……私もう帰るわ。じゃあね」
「バイバイ」
私はすっかり重くなってしまった足を引きずるようにして、校舎を出た。
「はあーぁぁあ」
騒がしいグランドを横切り、校門へと向かう。その間ずっと、背中に子泣き爺でも乗ってるんとちゃう? っていうぐらい身体も重いし、足取りも重い。さらに重いため息までも。
確かにね。私は要領が悪い。そんな私は一日の授業をこなすのも精一杯だというのに、最後のリンとのこの会話で、なんだかどっと疲れが噴き出したような気がして。
校門には立ち話をしていてキャッキャキャッキャと騒いでいる女子や男子たちのグループ。陽キャなグループへ飛び込んでいくのも苦手な私は、その合間を縫うようにして通り過ぎ、大通りへと出る。家への道をひとり、いや背中におぶった子泣き爺とふたり、トボトボと帰った。
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