春雷

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春雷

夜、実家に帰宅している私。 駅から、いつものように坂を上がると、 生暖かい風が吹き、遠くで雷鳴が聞こえ始める。 (今夜は荒れるな) 思いながら、自宅前の坂を下る。 家の勝手口には、ボロボロの広告が落ちている。 それを拾い上げ、だいぶ傷んでいる扉にカギをさしながら (もうこの家、持たないかもしれないな。  母の“お弔い”まで、持たせようと思ったけど) そう思って、家に入ると、何となく家の中が暖かい。 居間の奥の両親の寝室には、明かりが灯り、 そこに二人が仲良く座って話し込んでる。 「何してんの?」 そう言いながら、父の頭をはたく。 「でへへへへ…」 生前の爺ちゃんが笑う。 それから母の頭も叩く。 「呆けは治ったの?」 「…叩かないでよ」 痴呆が入ってすぐのリアクションを取る。 そこで目が覚めた。 泣きたくなるくらい暖かな夢だった。
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